「退屈ならもう一生分味わったから」と〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉を舵取るラムダン・トゥアミ。ひと時も無駄にせず、誰よりも濃く日々を疾走する彼を東京で取材。鮮やか色のコレクターズライフに迫った。
〈ビュリー〉オフィス in TOKYO!|退屈知らずの伝道者、ラムダン・トゥアミのクリエイティブな遊びの時間 vol.1
ラムダン・トゥアミが生きる時空に限って言えば、1日はきっと24時間を超えているはずだ。
創業1803年、パリの総合美容専門店である〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉を復活させたオーナーであり、パッケージからインテリアまでクリエイティブのすべてを担当。DJにデザイナー、雑誌『WAM』の発行。数々のブランドのディレクションや、所有するカフェにホテル、印刷会社。いったいいくつのプロジェクトが同時進行しているのか、ラムダンの世界は圧倒的な濃度とスピードで回り続けている。
根っからの研究者であり、美的嗅覚に優れた蒐集家、そして誰より楽しむ才能に長けたクリエイター。来日したラムダンに、「美しいもの」たちを集めた〈ビュリー〉東京オフィスについて尋ねてみた。
自宅の雰囲気そのままの
カラーに満ちた東京オフィス
2021年2月に越してきた元赤坂のオフィスは、まずそのロケーションに驚かされる。
「東京にいる気がしないでしょ。自然あふれる環境にオフィスが欲しいと願っていたから、目に飛び込んでくる緑を前にここだと即決しました」
インタビューをした屋上には共有のテラスがあり、滞在中は毎日、遠く新宿まで望む青々とした木々を眺めながらランチを。晴天の下、スタッフミーティングをすることもあるという。
オフィスの中は、絵の具のパレットを広げたようなカラフルな世界。鮮やかな色が、借景のグリーンと不思議と調和する。
「そこら中、カラーであふれています。僕のパリの家と同じ。オフィス環境は重要だと思うんです。訪ねてきた人に『Wow!』と驚いてもらいたいし、スタッフにはクリエイティブな空間で仕事をしてほしい。日本のオフィスには色がないですよね。グレーに沈んだ場所で1日10時間を過ごすなんてもったいない。僕ならその時間を明るいスペースで過ごしていたいです。職場についたら、まず1杯の美味しいコーヒーを飲みながらね」
このコーヒーにも、ラムダンの信条を物語る逸話がある。実は当初、ボトルウォーターが使われていたのを発見して、すぐに水道水に変えるよう指示したそうだ。
「日本はプラスチック大国ですよね。〈ビュリー〉はうぶ声をあげた初日から、戦いを続けてきました。リップバームなどの一部を除いては、包装やボトル、チューブにも一切使用していません。すべてプラスチックフリーです」
ECなどを管理するラボスペースがオフィスの上の階に。白い棚に整然と〈ビュリー〉の製品が並ぶ機能的な空間で、スタッフも白衣で作業する。「特別な体験にしたいから」とラムダンがこだわる、カリグラフィーのサービスやイニシャルの刻印もここで。
タイポグラフィへの情熱は深く、スイスの活版印刷のプリント工場を3年前に買い取った。パリとスイスに構えるデザインオフィスでは、古い文字をベースにオリジナルフォントの開発も手がけている。精緻なデザインが話題を呼んだ『WAM』に続き、2021年秋には〈ビュリー〉の本も発行予定だ。