(写真左から)佐々木祐真さん、小松利光さん
小松利光さんと佐々木祐真さんの2名からなるユニット、System of Culture。一見すると、日常のスナップのようにも見えるなにげない静物や光景を切り取っている彼らの作品は、実は、意図とリファレンスによって細部まで演出されています。ふたりの関係性から目指しているイメージについて、ユニットでの活動や制作方法を聞きました。
(写真左から)佐々木祐真さん、小松利光さん
小松利光さんと佐々木祐真さんの2名からなるユニット、System of Culture。一見すると、日常のスナップのようにも見えるなにげない静物や光景を切り取っている彼らの作品は、実は、意図とリファレンスによって細部まで演出されています。ふたりの関係性から目指しているイメージについて、ユニットでの活動や制作方法を聞きました。
── 2人は大学の同級生ということですが、 System of Cultureはいつごろ結成されたのですか。
小松 大学卒業後、お互い会社で働きながら、夜中にファミレスで会って朝まで喋るということが2、3年続いていたんですが、この時間無駄だな、と思って。で、なんかやろう、と。写真はシャッターを押せば撮れるらしい、ということで、その話をした次の週には当時の貯金の半分くらいを使ってカメラを買いました。IKEAに行って幕や突っ張り棒を買って「こうやってやるらしい」と手探りで始めて。
佐々木 実家の一部屋をスタジオにして。6畳で、仏壇もあったりしてね。
活動初期の作品 “Basement Class” 2017
── 在学中から意気投合していたのでしょうか。
佐々木 意気投合したことはあまりないですね(笑)。
小松 もともと武蔵野美術大の視覚伝達デザインの同級で、たまたま地元が近かったんです。映画の趣味も違うし、合わない部分は常にあります。
── System of Cultureというユニット名はどのように決まったのですか。
佐々木 「Tokyo Art Book Fair 2017」に出展しようということになり、出展したり本を作ったりするために、名前を決めなきゃいけないということでユニット名を考えました。
小松 僕が知らないところで気づいたら決まっていましたね(笑)。
佐々木 そうですね。響きがいいし、意味がないけど意味深で、思わせぶりで煙に巻く感じがいいかなと思ってこれになりました。僕らの作品もそういう感じのものが多いので。
── なにをきっかけに写真に興味を持ったのでしょうか。
佐々木 僕の記憶では、アンドリュー・B・マイヤース(Andrew B. Myers)の写真を彼(小松)にシェアしたこと。
小松 僕もそれは覚えてる。おそらく広告写真で、プロップが均等に置いてあってパースがないような写真でした。僕は写真といえば荒木経惟や森山大道とかの印象が強かったので、マイヤースの写真のような奥行きのない写真って、とても絵画的で、写真の世界のなかであまり認められていないような感じがしていたけど、見てみたらかっこよかったし面白かった。こっちの方向もあるんだ、という感覚がありました。
── 個人の感想ですが「斜陽」のシリーズのなかでも、洗濯用ジェルボールをモチーフにしている写真はどのように見ればいいのかわからないと感じていました。一方で、VOCA展にも出展された作品(『The Landscape with the Three』と『The Landscape with a Clothes Iron』)は、お二人のやりたいことが少し明確になるという変化があったように感じました。それぞれの作品はどのような意図で制作されたのですか?
“Gell Ball” 2020
佐々木 熊谷守一の絵を見た後に二人で話していて、そっくりそのままに描くのではない描き方、たとえば印象派とか、そのまま見えた色ではなくて全く違う色で描くとかっていう描き方に興味を持ちました。
小松 印象派は、「記憶」のイメージの表現をタッチや色のコントロールで描いていると思うんですが、それを写真で置き換えると、ライティングとモチーフの演技とフレーミングで表現できる。だからこのシリーズでは人が記憶している映像ってどんなものだろう、と考えました。人の目は結構広角ですけど、iPhoneを見ようとするときとか、落ちているジェルボールを拾おうとしたときにはズームになる感覚がありますよね。そういう「記憶」の映像をすごく演出して色々コントロールすることで、印象派の質を追いかけている。はじめはルックの部分を追いかけていたんですが、印象派のことをやるようになってからは、形式ではなくてあくまで印象派絵画の質や感覚を扱っていて、リファレンスを見たときの「この印象を作りたい!」を写真でやっています。例えば、ティーバッグの作品やゼリーの作品は、風邪をひいて夕方に目がさめたときの記憶を「抽象化された映像」として再現したいという意図がありました。
“Jelly”
“Tea bags”
小松 だから、印象派を参考にしたものは「印象」を見てほしいし、山水画を参考にした『The Landscape with the Three』(2021)では三遠法が作り出す「視線誘導」を感じてほしいし、『The Landscape with a Clothes Iron』(2021)では、長谷川等伯の作品にあるような「余白」を見てほしいですね。
“The Landscape with the Three” (2021)
“The Landscape with a Clothes Iron” 2021
── 写真を平面芸術ととらえて、絵画の歴史とつなげるというアイデアにたどり着いたのはいつからですか?
小松 僕は初期の段階から意識していたと思います。はじめに実家にスタジオを作って撮影をし始めたときから、いきなり絵画的な構成をした静物を撮り始めました。僕が持っていたいわゆる「写真」の印象とは逆で、写真に対しても絵画に対してもアンチ感が強いと考えていたんです。そのときはピクトリアリズム(写真史初期に、写真の芸術としての地位の確立を目指し、絵画の構図や印象派的なソフトフォーカスを写真で表現する運動)も知らなかったので。
── System of Cultureの活動における基本的なコンセプトとして、美術史への立脚というのがあるのでしょうか。あるいは、作品によってばらつきがありますか。
佐々木 小松さんは割とあるんじゃないかな。スタートが割と違うよね。僕はシンプルに、撮っておもしろいかどうかでやっている。
小松 僕がそこに乗っかることもあるよね。
佐々木 撮っている間にそこのバランスをとっていると思うんです。だからジェルボールとかも思いつきです。ジェルボールを撮ったらおもしろうそうだなという。撮影するモチーフは買ってこないといけないので、何を撮るかはある程度事前に考えなくちゃいけないけど、作品になるかどうかはどう撮るかで変わってくるところもあるので、失敗するときもあれば、思ったよりうまくいくこともあります。
小松 僕はあくまでモダニズムを通って、写真にしかできないことをやるべきだ、ということも尊重したい。だから、ちゃんとピントを合わせるとか、カメラとしての性能を最大限に出したいとも考えています。うまくピクトリアリズムとモダニズムともつながって、それが美術とつながっていくといいなって。だからぱっと見ではスナップに見えたり、見えなかったりするといい。
── グミやマーブルチョコなどのお菓子を使った作品も印象的です。西洋絵画には出て来ない素材ですよね。
小松 これは『Sacred Place』っていうシリーズで神殿とか祠(ほこら)みたいな意味で、子どもが遊んでいるときのようなイメージです。子どもって、食べ物から「食べ物」という役割を切り離して積み木として遊んだりすることがありますよね。そういった、集中して遊んでいる感覚をテーマにしています。
“Gummy bears on a mug” 2021
── VOCA展に出展された「Landscape」シリーズを見て、ジェフ・ウォール(Jeff Wall)を想起しました。制作する中で影響を受けた写真家や、逆にこっちの方向性にはいかないように意識している、などはありますか。
小松 作家としてのポジションのことは常に意識しています。ジェフ・ウォールは制作を始めてから知ったんですが、確かにとても近いと思いました。
佐々木 この2作はVOCA展に出すために作った作品だったので、美術史や平面の表現の歴史にどこまで接近できるかということは考えていました。この作品の前はそんなにジェフ・ウォールを意識してなかったよね?
小松 前に個展をしたとき、お客さんに「ジェフ・ウォール知ってる?」って言われて知りました。写真家にはそんなに明るくないよね、僕ら。写真より絵画とか映画の話をすることのほうが全然、多いです。
── さきほど、映画の好みには違いがあるというお話がありましたが、どのような映画から影響を受けていますか。
小松 お互い映画が好きでよく話してきたこともあって、『バードマン』や『ツリー・オブ・ライフ』の撮影監督であるイマニュエル・ルベツキの撮った画面には、すごく共感します。逆にキューブリックのシンメトリカルな画面が安っぽく見えてしまうというか。
佐々木 ルベツキの撮る画面には感覚的にですが 「すごいものを見た」という感触や質感がある。テレンス・マリック監督(『ツリー・オブ・ライフ』の監督)の作品の神秘性にもマッチする画作りをしていると思います。
小松 あと、坂元裕二のドラマの演出や小道具の使い方にはふたりでぐっと来ているよね。『いつ恋』の音ちゃんが、彼氏にもらった高級な花瓶から元々使っていたオレンジジュースの瓶に移し替える話とか、『最高の離婚』で登場人物の四人が話し合う時に、それぞれのみかんの食べ方が違ったりする話とか。
── おふたりの被写体の選び方も独特ですよね。モチーフはすべて画面を作るためのパーツとして考えていらっしゃるのでしょうか。
佐々木 映画が好きなので、前後のストーリーを感じさせるようなものも好きです。
小松 例えば、『The Landscape with the Three』は山水画を意識しているので、「現代のユートピア」的なモチーフとして、シーシャとかワインを置いています。『The Landscape with a Clothes Iron』は、まずは単純に形が欲しかったので、アイロンを置いているんですが、でもモチーフには不都合がないようにしています。「アイロンがあるからシャツがいるよね」とか、「ジェルボールが落ちているならバスマットの上だよね」みたいな。
佐々木 お話を考えているわけではなく、自然になるようにしています。
小松 セットアップだと、どこかに不都合なところが出てしまう。例えば、アニメって全部隅々まで書かれているから、すべて人の手に支配されているじゃないですか。写真もすべて意図しないと不自然なところが出てきたり、変な意味が出てきたりしてしまうので、そうならないようにコントロールしています。
── テーブルのうえの果物の静物写真が印象的だったので、セザンヌの方法を写真的に実践しているのかなと予測していましたが、リファレンスとするイメージはどのように選んでいるのですか。
小松 作品によって異なりますが、制作にあたってリファレンスにしているのはInstagramやtumblrのフィードです。Instagramやtumblrからのインプットっていうのは、現代の作家のひとつの特徴だと思う。
佐々木 tumblrで流れてくるものってほとんどがなんらかのジャンルの写真なんですよね。「あ、これはアイドルだ」とか、「グラフィックデザインだ」とか、どのカテゴリーなのかが一瞬でわかるんだけど、たまに、属さない、どのカテゴリーかわからない、意味のわからないものが出てくる。そういったものを、フィルターして抽出していて、それを作品に落とし込んでいます。だからスナップって直感的には思われないようなレベル感や作り込んでるって思われないようなレベル感で、ファッションでもなく、静物っぽくもあるけど、でもすぐには判別できないものを作ることがゴール。目の解像度が高い人じゃないとすぐにはどんな写真かわからないかもしれないけど、それで全然オッケーというか。
小松 いまは世の中にある画像ってほぼカテゴライズできる画像なので、そういう、カテゴライズできないものって貴重なんです。そういうイメージを目指している部分は大きいです。
2017年に活動をスタート、小松利光と佐々木祐真の2名による東京をベースに活動するユニッ ト。共に武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒、作品は全て共同制作。
systemofculture.com
Instagram: @systemofculture