1990年代、全米にかつてない程の衝撃を与えた12歳少年と34歳女性のスキャンダル、「メイ・ディセンバー事件」から着想を得て、『キャロル』のトッド・ヘインズが監督を務めた映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』(公開中)。ナタリー・ポートマンは劇中で、ジュリアン・ムーア扮するグレイシーのスキャンダルの映画化で主演することになったハリウッド女優エリザベスを演じる。プロデューサーとしても名を連ねる彼女が、「女優」というキャラクターの面白さについて語る。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』主演ナタリー・ポートマン、インタビュー
「社会の中で特定の役割を演じなければならない私たちは、ある意味、みんな女優」
──本作は、人間がいかに複雑であるか、そして、特に女性がいかに常に女性としての振る舞いを期待され、それを内面化しているかを、風刺的に描いています。プロデューサーとして、脚本を監督トッド・ヘインズに送ったのはあなただそうですが、なぜ彼に依頼しようと?
トッドは、私たちの生活の中における女性を描くのがとても上手いと思っているからです。彼の作品、特にジュリアン・ムーアが主演している『SAFE』(95)や『エデンより彼方に』(02)は、女性の内なる葛藤を見事にとらえていましたし。また、パフォーマンスとアイデンティティというテーマは、彼の映画で頻繁に扱われています。この映画は、まさに彼がとても巧みに描いてきた問題を提起しているので。
──オファーしたときのトッド監督のリアクションは?
本当に興奮してすぐ返事をくれたんです。長い間、一緒に仕事をしたいと思っていましたし、以前にも何度か台本を送ったことはあったのですが、彼が即答をし、興奮していたのは今回が初めてでした。私にとっても驚くべき瞬間でした。
──ジュリアン・ムーアとの共演はいかがでしたか?ジュリアンはグレイシーを演じていて、あなたは、ジュリアンが演じているグレイシーを映画の中で演じる女優の役なので、ある種、同じ役にアプローチするような経験だったと思いますが。
夢のようでした。ジュリアンは尊敬する大好きな俳優ですし、私のキャリア全体を通して見ても、現代における偉大な俳優の一人ですから。彼女の近くで仕事をし、演技を間近で見るという機会を得られたこともそうですし、私が彼女を研究する女優を演じることで、彼女の演技に対する私自身の魅力をキャラクターとして使うことができました。彼女が、私と共有するためのポイントを探りながら、極端に見えるようで絶妙にリアルな人物としてグレイシーというキャラクターをつくりあげていく様子は魔法のようで、驚きの連続でした。そして、彼女が素晴らしい人間であることも知れました。今や友人としても、最高の人物だと思います。
──今回、リハーサルの時間がなく、短期間で撮影されたそうですが、現場はどのような雰囲気でしたか?
事前に時間が取れなかったので、撮影期間は全部で23日間くらいでした。とても早く、スムーズに進んだと記憶しています。それは、監督であるトッド・ヘインズが、しっかり準備をしてくれていたからだと思います。彼は自分が何を望んでいるのかよくわかっていて、計画的に撮影を進めていたので、無駄がなく、私たちが演技する時間を優先する撮影方法を選んでくれました。だから、やろうと思えば8テイクも9テイクも撮ることができたというか。
──いい環境づくりをしてくれたんですね。本作は、リアリティ番組人気の風潮を茶化す側面があるというか、我々がいかに他者の人生におけるドラマやカオスを好んで消費しているか、そのリスクにも触れています。実在の人物が関係する映画をプロデュースしたり、演じる上で、何か心に留めていることはありますか?
まあ、実在の人物の人生を描くときは、誰もがそのリスクに直面しますよね。この映画が問いかけているのは、実在する人物に影響を与えることなく、その人の人生を描くことは可能なのかということです。ドキュメンタリー作家のようにね。そうすることでストーリーの形や対象の人生の流れが変わってしまうことは避けられないのか、そしてもちろん、芸術が道徳となり得るのかどうかも。もちろん、映画は裁判所ではないし、私たちは善悪の判決を下してはいません。芸術や映画は、問いの探求であり提起であると思うし、私がこの映画をとても好きなのは、答えを与えようとしないところなんですよね。
──とても共感します。ちなみに、リアリティ番組は観ます?
リアリティ番組はあまり見ません。「トップ・シェフ」(10-)は好きだけど(笑)。料理を作って競争するようなものもリアリティ番組と言えますよね。
──そうですね。11歳から映画の現場に立ってきたご自身は、常に観察され、期待されることに関してどう付き合ってきました?
若いうちに演技を始めたことは、ラッキーでもあるし、不幸でもあると思っています。それしか知らなかったから。つまり、子どもの頃からプライベートと仕事が混合していたんです。そして、長い間、それらを意識的に完全に分けようとしていましたし、今でもある程度、線引きはしたいと考えています。一方で、その両方の側面が私という人間を構成していて、公私を統合する必要があることもわかっているんですよね。
Text&Edit_Tomoko Ogawa