「かわいい」。その言葉に理屈はない。直感で、右脳で。人は日々の生活の中で「かわいい」ヒトやモノ、コトを見つけて、思い、言葉にし、愛でる。それはきっと、好きのはじまり。だから「かわいい」は正義であり、哲学である。この連載ではファッションを通じて、女性の暮らしや生き方を通じて「かわいい」を追求し、その言葉の背景をとことん掘り起こして研究します。そこには、GINZA ガールズの背中をおす大切ななにかがあると信じて。さあ、「かわいい」ゼミナール、開講のお時間です!
編集者・渡部かおりの「かわいい」ゼミナールVol.6 クスッと笑って元気になれる、愉快な「かわいい」
みなさん、お久しぶりです。ちょっと、いやかなり…間が空いてしまったうちに、世の中は様変わりしてしまった。約2ヶ月の自粛生活を通して、生活や仕事のあり方、そして社会が大きく変わる様を体感している。何もかも元通りになることはきっと、ない。ならば現実を受けとめ、間違っていたことは反省し、鮮やかに自分の価値観を変えていける人間でありたい。
ファッション産業もまた大きく変わっていくべき中で、この連載では、引き続き、今の時代の「かわいい」を追いかけていく。おしゃれすること、服を買うことは不要不急という見方がある承知の上で、それでも、人生や生活には、無駄や余白の中にだけ存在する幸せとか、感情を揺さぶるなにかとか、前を向くポジティブなパワーがあると信じている。ファッションとは単なる着こなし方ではなく、その人の生き方そのものだ。
そしてこれからは、今よりももっと、もっと、どこでどんな風に「かわいい」ものを買うのか、消費そのものにも、その人の意思意向が宿ることになると思う。
前置きが長くなって、すみません。さて、今回はこんなご時世に落ち込みがちな心を、視覚的にちょっと上向きにしてくれたり、思わず笑顔にしてくれるアイテムを集めてみた。 題して、愉快でかわいいものたちよ!
〈アンダーカバー〉の転写プリントポーチ
転写ポーチ ナン¥8,000、転写ポーチ ローストチキン¥6,500(共にアンダーカバー)
毎シーズン、思わず二度見してしまう、とびきりユニークな転写プリントのポーチをリリースしている〈アンダーカバー〉。今季、笑ってしまったのがこちら。まさかのナン、そして皿に盛り付けられたチキン! これがバッグに忍ばせてあると思うと、愉快な気持ちになれる。
ナンにパソコンの充電器やら手帳やら入れてみたり、チキンを化粧ポーチにしてみたり。さり気なく取り出したら、一緒にいる人の反応は?想像するだけで楽しい。このシリーズは、デザイナーの高橋盾さん自らが日常で撮った写真をもとにして作られているそうだ。モチーフにより、サイズもフォルムも様々。私は、ひらめきがありますようにとの思いを込めて、豆電球型の小さいポーチを筆箱代わりにしている。大好物のクリームソーダも所有。
〈ダブレット〉の世界一ユニークな、モード服
絶大なコミュニケーションツールになるアイテムを、上質で本格的な服作りで実現する〈ダブレット〉。端正なチェックシャツに、立派なトラの刺繍。あれ、顔がない?腕組みをすると、ガオーと吠える。腕組みしたまま上下に動かせばトラが喋る。「いろいろあるけれど、今日も元気にいこうぜ!」とアテレコしたりして。
クラッチバッグ¥28,000(ダブレット|スタジオ ファブワーク)
観光地でよく見かけるベタな顔ハメパネルを模したシリーズ。ファッションエディターよろしく、熱心に洋書を読み込んでいるふりをして、自分が表紙になっちゃう私。これは、なんとクラッチバッグ。カフェでの待ち合わせにどうだろう。わはは、とひと笑いしてから打ち合わせに突入したりして。諸刃の剣だが。
ん?これは?単なるロゴパーカか?と見せかけて、点と点を合わせるとなんと「MARRY ME?」のメッセージ。新手のプロポーズをZoom画面で試してみたりして。感動を呼ぶかどうかは保証できないが、クスッと笑える(はず)。こちらもまた、諸刃の剣だが。しかも「MARRY ME?」の下には「IF YOU WANT IT」の文字。かの有名なジョン・レノンとオノ・ヨーコのWAR IS OVERポスターへのオマージュを忍ばせていてすごいと、友人が教えてくれた。
〈アンブッシュ®〉のモチーフアクセサリー
左上から時計回り: ヘアクリップ ピンク¥40,000、ピル チャーム ネックレス 2 シルバー-レッド¥27,000、ハート イヤリング ゴールド¥24,000、スワロフスキー ヘアクリップ ゴールド-ライトグリーン¥50,000(以上アンブッシュ®|アンブッシュ® ワークショップ)
普通ならクセづけのために使い、出かける前に外すべきヘアクリップをゴージャスなヘアアクセにしてしまったり、錠剤をネックレスにぶら下げてみたり。〈アンブッシュ®〉のアクセサリーは日常の何気ない小物を、真面目にファッションにしてしまうところが楽しい。ラブリーなハートは、安全ピンにぶら下げてパンクに揺れる乙女心を表現。元気がでる、お守りのようだ。
少しずつ、新しい世界へと進んで行く今、こんな風に、愉快で楽しい「かわいい」ものが元気をくれる。さて、今回も恒例の宿題、いってみよう。断捨離もいいが、人から見れば無駄だけど自分が笑顔になれるものは捨てずに手元に残してみること。たとえば、私はこんなラインナップだ。
動物柄のTシャツとスウェットや靴下(の一部)。ファーやレザーは着ずに、ぎりぎりのギークなアニマル柄を集めている。共に、古着。脚を組んだ時、疲れて帰宅し、靴を脱いだ時に現れる靴下のフクロウやキツネには、思いのほか、癒されて、ニコリとしてしまう。では、今日の「かわいいゼミナール」はここまで!
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渡部かおり
編集者・ライター。編集プロダクションFW(フォワード)主宰。GINZAをはじめ、様々な女性ファッション誌で編集と執筆の両方を担当するほか、広告のビジュアル制作、企業のブランディングなど。近著は『英国ロイヤルスタイル』(クレイヴィス刊)Instagram:@fwpress