ひとの身体にはWHO(世界保健機関)の定めた標準経穴という361穴のツボがあります。全てを治療で使うことはありませんが、なかでも治療穴にしづらいのが「会陰」と呼ばれるツボです。名前のとおり会陰部にあり、男性は“陰嚢根部と肛門を結ぶ中点”、女性は“後陰唇交連と肛門を結ぶ中点”。なんとなくイメージできますか?直接は見えづらいし、他人にはそう簡単に見せたくない、そんな場所にあります。自分の会陰穴でさえ積極的に押そうとはしませんが、「全てのツボを試してみたい!」と熱意あふれる鍼灸学生時代に、四つん這いの姿勢で鍼を刺してもらったことがある、という強者もいます。
この「会陰」の場所のことを考えると、様々な性機能や性反応の話に思いを巡らせてしまうのです。
会陰を押すと勃つの萎えるの?
男性の会陰部分は別名「蟻の門渡り」と言われています。ここへのアプローチは「皮膚表面への軽い刺激が快感を生む」や「押し込むような圧を加えると、間接的に奥の前立腺が刺激されるようで気持ちがいい」など快感向上系に働くという意見もあれば、逆に江戸時代の性指南書には「射精をこらえるには蟻の門渡りを押さえるべし」といった興奮を落ち着かせるような記載もあります。
刺激方法や個人の感受性によっても効果は様々でしょうが、鍼灸治療では「主治は溺水窒息・意識障害・大便小便不利・痔疾」、「効能は意識をはっきりとし蘇生させる・便と尿の出をよくする」とされています。溺水窒息?そんなときに鍼?と思うのですが、これは鍼灸の古典に“危篤状態の土左衛門は、逆さ吊りにして会陰に1寸以上鍼を刺すと水を吐き屎尿を漏らして生き返る”とあり、こういったところからきているようです。
先日、「最近中折れ気味で…」という方に、性行為の最中「会陰」を押したらどうなるか試してもらいました。パートナーに指先で押すように刺激してもらったそうなのですが、復活しなかったとのこと。危篤状態から覚醒へと働くツボなので、セクシャルな気分はクールダウンしてしまったのかもしれません。
男性の「会陰」の場所を探すためのガイドとなる陰嚢根部と肛門ですが、この距離(専門的にはAGD:肛門性器間距離)が短いと精子に異常を持つ確率が高くなるというデータがあります。病院に行き顕微鏡で調べてもらう以外に、こういった簡単にわかる生殖能力の判定目安が見つかり、そのデータが集められているのは画期的なことだと思います。また、女性はクリトリスと尿道が離れているほどオーガズムを得やすいといった調査結果も見られるそうです。
性器の配置と距離間は、今後の性科学的な判断指標になりつつあるようです。
上には上なり、下には下なりの良さがあるのです
女性は会陰の長さよりも、膣口と肛門の距離で「上付き・下付き」と区分されることがあります。江戸時代には「上付きは上品、あげまん」と評価されることもあったようです。
上付きは膣口がクリトリス寄り、下付きは肛門寄りとされています。“具体的に何㎝以上離れていると上付きで~”、などと定義されることもありますが、これは身体の大きさでも変わりますし、お尻の筋肉や脂肪の厚み、体幹の筋バランスや骨盤の角度によっても個体差があるので、感度や具合の良さとの関連はないと思っています。
上付きが評価されていたのは、単純に正常位の挿入の際にクリトリスが同時に刺激されやすく(クリトリスと膣口が近いため)、女性がオーガズムを得やすいので、その反応が男性を満足させていたからではないでしょうか。
中国では房中術(セックスによる養生法)の中で様々な体位が案内されており、上付きは身体を密着させて行う冬のセックスにとても良く(=正常位で挿入しやすいから)、下付きは夏に良い(=バックに向いている)といった、その女性の性器の形状にあった交接法を説いています。
パートナーとのセックスが体位によってしっくりこないという方は、腰の下にクッションを入れたり、股関節を深く曲げたりして、骨盤の角度を調整するだけでも改善されたりします。またアンダーヘアを全て無くしてみたら、クリトリスへの刺激や皮膚の密着が多くなり快感度が上がるということもあります。
女陰の良し悪しは、位置ではなく、その使い方次第なのですね。