GINZAで連載していた「ベルばら手帖」の夢企画が、5年の時を経てついに実現。トークあり、コンサートあり、バロックダンスのレッスンありと盛りだくさんの「ベルばら舞踏会」を開催しました。サプライズの品も登場したスペシャルな“ダンパ”の様子をご紹介。
「ベルばら舞踏会」レポート!アントワネットが愛用していた○○も登場、時空を超えた!?奇跡の“ダンパ”
あれ、ここはどこ?(ヴェルサイユ宮殿?)、いまっていつ?(18世紀?)、ちなみにわたしはだれ?(オスカル?)……会場は神保町の学士会館、時は2019年6月25日の夕刻、わたしは現代人なわけですが、思わずそう尋ねたくなってしまうこの非日常感あふれる空間。「あなたが考える“ベルばら的”盛装」というドレスコードに合わせて、みなさま盛りに盛ってきてくれました。
アトリエSHIONEドレスデザイナーの汐音さんのロココドレスに身を包み、ヴィヴィアン佐藤さんの特製ヘッドドレスを頭上に戴いた湯山玲子さん。
「複雑な振り付けのダンスをちゃんと踊れることは、これすなわち、頭の良さとセンスの証明。踊れなければ出世できない、下手したら宮中出禁。これって我が国の戦国時代、信長や秀吉がハマり、大名達が侘び寂びを競った茶の湯に通じるんですよね」と、「ベルばら手帖」執筆者で今回の舞踏会の発起人である湯山玲子さんならではの鋭い語りから会はスタート。「ドレスを着た状態でのバウンスだったり伸ばす動きだったりは、着物のすり足とは違うわけで、装束と身体の関係を踊りながら体感してみましょう」。メインのバロックダンスの目的を確認したところで、まずは今回の“パトロン”(がいなければ宮廷文化は育まれない、ベルばら舞踏会も実現しなかったということで)、「ニナス マリー・アントワネット」の紹介をば。
「ベルばら手帖」の連載中、湯山さんはじめ編集チームは「ニナス マリー・アントワネット」と出会い、ヴェルサイユへ招かれ、彼らが提携する「王の菜園」を取材しました。「王の菜園」とはルイ14世がヴェルサイユ宮殿の傍らにつくった農園で、そこでは今も野菜や果物、植物などが育てられています。そこで獲れたリンゴやバラを使った紅茶などをつくっているのが「ニナス マリー・アントワネット」。元は香料メーカーとしてヴェルサイユ宮殿に出入りしていたブランドの流れを汲んでいます。そんな彼らは「マリー・アントワネット アソシエーション」を支援し、マリー・アントワネットのイノベーターとしてのストーリーとヴェルサイユ文化の素晴らしさを伝える活動も行なっています。
「マリー・アントワネットってイノベーターだったの?」と思われたかもしれません。「ベルばら手帖」の元ネタである名作漫画『ベルサイユのばら』の中でも当時随一のファッションデザイナーや画家などの創作に関わったことが描かれていますが、アントワネットは持ち前のセンスと斬新な発想、そしてクラフトマンとの交流により、革新的なクリエーションをプロデュースしていたわけです。当時のヴェルサイユは、ファッション、芸術、音楽、香水、料理、テーブルウェア、科学……さまざまなアイデアの発信地であり、ヨーロッパ全体で大きな影響力を持っていました。ちなみに世界で初めて人を乗せた熱気球の飛行を成功させたのもアントワネットだったとか。
「マリー・アントワネット アソシエーション」フランス代表のマイテ・ブルノーさん
さて、ここで「アソシエーション」フランス代表のマイテ・ブルノーさんが登壇。「今回、日本で初となる『ロワイヤル イノベーター アワード』を贈るためにフランスからやってきました。『ベルサイユのばら』は他に類を見ない斬新な切り口、オスカルを通して世界中の人々に幸せと勇気をもたらし、想像力とクリエイティビティを促し、さらにアントワネット、ヴェルサイユの文化の素晴らしさを伝えてくれた、まるでタイムマシーンのような存在です」。と、ここまでくると、受賞者はわかりますね。そう、『ベルサイユのばら』の作者、池田理代子先生です!
アワードの表彰状を受け取る池田先生。
大きな拍手で迎えられ、自前のドレスで登場した池田先生は「ありがとうございます。アントワネットが書いた歌曲を歌うために2年間フランス語を勉強しましたが、人様の前で話せるほどではないので日本語で」と前置きしてから、「今日は素敵なアントワネット様たち、オスカル様たち、ルイ16世様たちが集まってこのような会が行われることをとても嬉しく思います。バロックダンスの浜中康子さんは第一人者で何度か舞台でご一緒していますが、当時の複雑な動きを舞踏譜から復元させるという功績は非常に大きいと思います。それがもっと広まってくれると嬉しいです」とコメント。
「ニナス マリー・アントワネット」の紅茶やジャム、アントワネットのパールジュエリーコレクションを再現したネックレスなどが詰め合わされたトレジャーボックス、また、マリー・アントワネット王妃の磁器工房で作られた18世紀のカップ&ソーサーを老舗陶磁器メーカー「ノリタケ」の技術でリプロデュースしたテーブルウェアコレクションなどが贈られました。
18世紀にマリー・アントワネット王妃の工房で作られたカップ&ソーサーの実物はロビーのショーケースで展示。
さらにサプライズとしてお披露目されたのが、アントワネットの遺品である指輪。アントワネットの親族へと渡り、その後も関係者により長い間一般に公開することなく大切に保管されてきたと言われるものがオークションで競り落とされ、このほど公開されました(ちなみにアントワネットのジュエリーコレクションのオークションで、コレクション全体の落札金額は78億円だったとか)。
池田先生が指にはめてみると、なんとサイズがぴったり。
ダイヤモンドがあしらわれています。
トーク&コンサートでベルばら気分、とめどなく上昇↑
さて、続いては池田先生と湯山さんのトーク。「ベルばら手帖」のベースとなっていた“女性の生き方”について話が展開しました。その一部をどうぞ。
湯山さん:池田さんが描いたオスカルは、男装しないと当時の社会でプロの軍人として生きられなかったわけですが、今は全くそうではない。女性活躍社会って政府も言っている。しかしながら、オスカルのように仕事に生きがいをもつ女性は生きにくくなっているように思います。
池田先生:私もそう感じます。私の世代や湯山さんの世代が社会に出て必死で自分の仕事をやってきた時代が過ぎて、その下の世代は『あんなにがんばらなくちゃいけないのか』と思ってしまって、今はそうではない方向へ向かっているのかもしれない。だから例えば私がこんなふうにドレス姿で楽しんでいる様子をお見せして、働きながらでもできますよって伝えてあげたほうがいいのかなって。
湯山さん:自立っていうことが女性だけでなく男性もなかなかむずかしいんですよね。男性が家計を支えていると言っても、みんな一緒の思考停止で会社に依存してる。
池田先生:私が漫画家になったそもそもの理由は、元祖ひきこもりだからなんです(笑)。人間関係がとても下手で、なんとか人に会わないでできる仕事がないかと思って、小説家か漫画家だろうと。今はインターネットもありますから、引きこもっても何か仕事をすれば、社会参加できるし、自立できると思います。
久しぶりの再会で話が弾む池田先生と湯山さん。
湯山さん:何と言っても、池田先生がカッコいいのは、第一線のマンガ家というある意味既得権の座から、大胆にキャリアチェンジしたことですよ!! 40歳から音楽の道で再スタートした。今でこそそういう例もありますが、当時はまだ珍しかったですよね。
池田先生:音楽はずっと好きだったんです。人生長くなったんだから、やり残したままで死にたくないと思って、思い切って。
湯山さん:池田先生はオペラ歌手としてだけでなく、演出家としても活躍されていて、舞台を何度か拝見しましたが、舞台の構図が素晴らしい。ここっていうシーンの絵作りがさすが漫画家さんだけあって、うまいですよね。
池田先生:絵コンテを描いてるかんじですね。このシーンはこの画角でこの絵で決めるっていうのはあります。
(一同深くうなずく)
浜中康子先生(左)。東京バロックダンス研究会主宰。8月31日に第一生命ホールで公演「舞曲は踊るⅢ -ヴェルサイユより時空を超えて-」を予定。
トークの後は、バロックダンス講師の浜中康子先生にバトンタッチ。まずは「ルイ14世、15世に仕えた音楽家」をテーマに、当時使われていた古楽器で演奏する「アンサンブル・ドゥ・ヴェルサイユ」によるミニコンサートです。
1曲目はチェンバロのソロでルイ=クロード・ダカン(1694-1772)の「かっこう」。ダカンは6歳でルイ14世のために御前演奏を行った人物で、1755年にノートルダム大聖堂のオルガニストの称号を得ています。
チェンバロの上尾直毅さん。チェンバロはピアノの前身と思いきや、弦を弾くメカニズム。なめした牛の皮をのせて柔らかい音にしたりもしていたのだとか。当時の鍵盤の花形でヴィオラ・ダ・ガンバとともにバスを担当することが多い。
2曲目はヴィオラ・ダ・ガンバがメインのマラン・マレ(1656-1728)「プレリュード イ短調」。マレは1679年からルイ14世の宮廷ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)奏者として活躍したといいます。
ヴィオラ・ダ・ガンバの平尾雅子さん。ガンバ(スネ)の間に挟んで演奏するヴィオラ(弦楽器)で、7本もある弦を指で弾いて和音と旋律を並行して弾くことに長けている楽器。貴族の衰退とともに廃れていったのだとか。
3曲目は、バロックヴァイオリンがメインのジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)「タンブーラン」。ラモーは1745年からルイ15世時代(=ロココ時代)の宮廷作曲家として30曲ものオペラを作曲しました。
バロックヴァイオリンの伊藤誠さん。金属弦が発明される産業革命前の時代のものなので、羊の小腸をよじり合わせたダットを弦に使用。「馬の尻尾の毛で羊の小腸をこする楽器なんです」(伊藤さん)
浜中先生の声かけで奇跡的に集結した名演奏者たちによる音色が響き渡ります。
うっとり聴き入るみなさん。
ヴェルサイユ宮殿と同じシンメトリなダンスをいざ踊らん♪
さて、その古楽アンサンブルとともに、いよいよバロックダンスといきましょう。一つ目は「パヴァーヌ(マーチ)」。16世紀末、アンリ4世によってブルボン王朝が成立された頃、ルイ13世時代に踊られた、舞踏会へ入場するときの王侯貴族の行列ダンスです。浜中先生のレクチャーを受けながら、皆で行進します。ぱっと見は簡単ですが、実は「フツーじゃない」ステップを踏まなくてはならず、とても「音楽に乗って優雅に」の境地には至りません。しかし、みなさんの気分はもはや、ベルばらの舞踏会に招かれた、お嬢様やマダムたち。
みなさんが並んで一斉に踊ると壮観です。
次のダンスに移る前に、浜中先生からバロックダンスについてのお話が。舞踏譜が音と動きを表していること、またその形がヴェルサイユ宮殿と同じシンメトリな形であること、そして当時のダンスレッスンには小型のヴァイオリン、ポシェットバイオリンが使われていたことを説明。さらに伊藤さんによるポシェットバイオリンの演奏も。
左が舞踏譜。中はヴェルサイユ宮殿の絵。右は当時のダンス教師の絵。
続いて浜中先生とダンスパートナーの北條耕男さんによるバロックダンスのデパフォーマンス。プロの本格的なバロックダンスを鑑賞しながら、当時の舞踏会の様子に思いを馳せました。
複雑なダンスをすらすらと踊る浜中先生と北條耕男さん。
最後に、二つ目のダンスとして、「メヌエット」で踊ります。ルイ14世時代にフランス宮廷に登場したメヌエットは宮廷舞踏の花形として、一世紀以上に渡り、ヨーロッパ中の宮廷で踊られた舞曲。序列を超えてパートナーが変わっていくコントルダンスの形をアレンジしました。いやー、これも頭で分かっていても、身体がついていかないジレンマに最初はみなさんオタオタ。しかし、コツを捕まえると、パートナーが変わっていくドキドキを楽しむことができるようになります。
グループで教えあって踊るうち、舞踏会然とした形に……!
そして舞踏会はお開き。「ニナス オリジナル マリー・アントワネット ティー」と同じリンゴとバラのアロマが香るソフトキャンディーと、金でコーティングされたチョコレートが入ったドラジェ缶をおみやげとしてお持ち帰りいただきました。
袋の中身はドラジェ缶 チョコレート&マリー・アントワネットソフトキャンディー。
「マリー・アントワネット アソシエーション」のジャパン イベント マネージャーで、アトリエSHIONEのドレスデザイナーである汐音さん(右から2番目)とお仲間のみなさん、そして湯山さん。
踊りやすさを考慮したアルモワール・ドゥ・コスチュームさんの衣装に着替えた湯山さん。ドラァグクイーンのジャスミンさん(右から2番目)、湯山さんほか一部のお客様のヘッドドレスを手がけたヴィヴィアン佐藤さん(右から3番目)、レジーヌさん(左から2番目)、そして白タキシードのメンズたちは、オペラユニット、ザ・レジェンドのみなさん。
NINA’S MARIE-ANTOINETTE presents
「ベルばら手帖」×「爆クラ」による宮廷ダンパ
バロックダンスを生音で踊る!レジェンドに会える!!
「ベルばら舞踏会」
協賛: NINA’S MARIE-ANTOINETTE FEMMES DU MONDE Marie Antoinette Official Association Japan
企画: 爆クラ
制作: PROMAX