実力派の脚本家たちにより優れた作品が次々と生み出されている、 近年の日本ドラマ界。書き手の名で番組を選ぶという人も少なくない。今回はなみいる名手の中から、オリジナル脚本を得意とする人物をピックアップ。テレビドラマに造詣が深い岡室美奈子さんに、 各作家の見どころとおすすめの作品について語ってもらいました。
『リーガル・ハイ』堺雅人の“嘘の重ね方”は、縛られた価値観を覆す。脚本家・古沢良太の心に残るドラマ

古沢良太
ここがスゴい!
☐奇抜な登場人物が
一般常識をぶち壊す
☐壮大な嘘をつかれる
痛快さが気持ちいい
☐スピード感抜群。
フィクションの面白さを満喫
『リーガル・ハイ』第8話の法廷シーン。親子の親権訴訟の裁判で、 古美門は決別していた弁護士である実父と対決することになる。
「クレオパトラは、本当に美しかったのか。SNSにあげるスッピンは、本当にスッピンなのか。私何もやってないんですよーと言った人は、本当に何もやっていないのか。真実はファンデーションの下に。コンフィデンスマンの世界にようこそ」 リチャード
───────『コンフィデンスマンJP』8話より
古沢良太さんの作品は、どの作品にも共通して「嘘」が面白いのが特徴です。『リーガル・ハイ』の古美門(堺雅人)は、法外な報酬を受け取る代わりに、訴訟では絶対に勝つ。新人弁護士の薫真知子(新垣結衣)とともに訴訟をする物語です。古沢さんの特徴がよく表れているのが第8話。名子役の女の子が母親からの束縛を逃れるために親権剥奪の裁判を起こすんですが、どこからが演技でどこからが本心なのか…..。嘘の重ね方が秀逸。古美門さんは、いわゆる「いい人」ではありません。平気で嘘もつき、時には犯罪まがいのこともしますが、一般常識ではない彼なりの倫理や正義がある。それは『コンフィデンスマンJP』のダー子(長澤まさみ)も同様。彼ら詐欺師チームはさまざまな役を演じ、人を騙しては大金を巻き上げますが、それは悪いヤツからで弱者には手を出しません。演技も嘘のひとつ。裏を返せば人って誰でも演じていて、本当の自分なんてないとも言えます。古沢作品の痛快な嘘は、普段私たちが縛られている価値観を気持ちよくぶち壊してくれるのです。
『リーガル・ハイ』(12)
人間性が最悪だが法廷では必ず勝つ敏腕弁護士の古美門研介(堺雅人)と、彼に仕える正義感の強い熱血新米弁護士の黛真知子(新垣結衣)が衝突しながらも協力し、あらゆる訴訟を勝利に導いていく法廷ドラマ。エキセントリックな古美門と真面目な黛の二人が早口で口論するシーンは話題となった。*DVD・BD発売中
『コンフィデンスマンJP』(18)
美しいけどハニートラップが苦手なダー子(長澤まさみ)、真面目で小心者のボクちゃん(東出昌大)、抜群の変装技を持つリチャード(小日向文世)のコンフィデンスマン(信用詐欺師)が、悪いことをしてお金を稼ぐマフィアのボスや悪徳企業などから大金を騙し取る、一話完結の痛快ストーリー。*FODなどにて視聴可
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古沢良太<br />
1973年生まれ。神奈川県出身。2002年に脚本家デビュー。主な作品に『鈴木先生』(11)、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(15)など。
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Navigator:岡室美奈子
早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系教授。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長。専門は現代演劇やテレビドラマなど。演劇博物館で『大テレビドラマ博覧会』という展覧会を開催したり、ツイッターで発言するなどドラマ論に定評がある