実力派の脚本家たちにより優れた作品が次々と生み出されている、 近年の日本ドラマ界。書き手の名で番組を選ぶという人も少なくない。今回はなみいる名手の中から、オリジナル脚本を得意とする人物をピックアップ。テレビドラマに造詣が深い岡室美奈子さんに、 各作家の見どころとおすすめの作品について語ってもらいました。
生と死。男性と女性。二元論を脱した豊かさを描いた『カーネーション』。脚本家・渡辺あやの心に残るドラマ
渡辺あや
ここがスゴい!
☐良妻賢母ではない
ヒロインを生み出した
☐心のひだを
細やかに表現した台詞
☐死が終わりではないことを
教えてくれる
10代からミシンと向き合い続けた糸子は、後年、北村(星田英利)に東京に誘われるが 「うちは宝抱えて生きていくよって」と岸和田に残る。『カーネーション』より。
「今の勘助にアンタのずぶとさは毒や!! 頼むさかい… もう、うちには近づかんといて…」安岡玉枝
───────『カーネーション』55話より
渡辺あやさんは、非常に寡作な方ですが、ひとつひとつの作品がまるで宝物のように輝いています。特にNHKの朝の連続テレビ小説『カーネーション』は優れたドラマでした。まずは主人公の糸子(尾野真千子)がいい。今までの朝ドラヒロインは、外で働くか良妻賢母のどちらかでした。でも糸子は違う。家にはいるけど、子育てもせず家事もしないで仕事をしている。そういう人をちゃんと描いたことが新しかった。糸子は岸和田に生まれますが、女性だという理由でだんじりを引けない。自分にとってのだんじりはミシンだと言って洋裁の道に進みます。そして男性社会で頑張っていくために男性化していく。途中、周防さん(綾野剛)と恋愛をして女性性が発露するんですが、同時にオッサン化してしまうんですね。悲しいことです。でも、それを乗り越えて糸子は性別を超え、自分自身がだんじりになって死者を含むみんなを巻き込む。男性と女性、ひいては生と死といった二元論を超え、人として豊かに生きることの大切さが描かれているのが渡辺作品の魅力です。
『カーネーション』(11)
大阪・岸和田の呉服店に生まれた小原糸子(尾野真千子)。周囲の反対を押し切り、ミシンとともに人生を歩むことを決意し、仕事をしながら3人の娘を育てていく。世界で活躍するファッションデザイナー 「コシノ3姉妹」の母・小篠綾子の生涯を実話に基づき描いた作品。*NHKオンデマンドなどで視聴可
『その街の子ども』(10)
阪神・淡路大震災から15年後の神戸を舞台に、中田勇治(森山未來)と大村美夏(佐藤江梨子)が街を歩きながら当時の痛みを追体験していく。家が壊れたり家族が亡くなったりするだけが被災ではない。さまざまなトラウマを抱えた人たちが、それをどう乗り越えていくのかを描き、観る者の心を揺さぶった。*劇場版DVD発売中。
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渡辺あや<br />
1970年生まれ。兵庫県出身。2003年に映画『ジョゼと虎と魚たち』でデビュー。主なドラマに『火の魚』(09)、『ロング・グッドバイ』(14)。
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Navigator:岡室美奈子
早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系教授。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長。専門は現代演劇やテレビドラマなど。演劇博物館で『大テレビドラマ博覧会』という展覧会を開催したり、ツイッターで発言するなどドラマ論に定評がある
Illustration: Tetsuya Murakami Text&Edit: Keiko Kamijo