『少年トレチア』
津原泰水
(ハヤカワ文庫/¥1,200)
高層団地が立ち並ぶ新興住宅地・緋沼サテライト。東京郊外の小都市で囁き交わされる「トレチア」という言葉。人名? 地名? 事故を誘発する呪文なのか暴力の合図なのか? 学生帽と白い開襟シャツに身を包み、悪意と無垢を翻しながら「謎」が翔る。証言、記録、人の記憶は、絶えず交差しながらもひとつの像を結ばせない。緻密に配された美しき言葉が、カタストロフィさえ玉虫色に光らせる。トラウマ必至の長編ミステリー、待望の復刊!
『保健室のアン・ウニョン先生』
チョン・セラン
(斎藤真理子訳/亜紀書房/¥1,600)
私立M高校には目に見えない何かが蠢き、保健室にはアン・ウニョン先生がいる。バッグの中にはBB弾を詰めた銃とレインボーカラーのオモチャの剣。死者は微笑み、生者は透明の粘膜に包まれ彼女の前を横切っていく。ファンタジーと日常が隣り合わせになりながら、集団から弾かれてしまう人、心の置きどころを見つけられずに迷っている人の手を引っ張りあげてくれるオムニバス短編集。Netflixでドラマ化も決定した韓国文学の現在地。