世界中から優れた文学作品を集め、翻訳・紹介を続けている「新潮クレスト・ブックス」シリーズ。 シリーズの魅力と楽しみ方を、新潮社文芸第一編集部の須貝利恵子さんに教えてもらった。#新潮クレスト・ブックス案内所
新潮クレスト・ブックス案内所|作家の出身国でニッチな世界旅行を楽しむ
作家の出身国でニッチな世界旅行を楽しむ
【スリランカ】
『波』 ソナーリ・デラニヤガラ
地震と津波が奪っていったのは、2人の息子と夫と両親。世界を砕かれ、濃密な恐怖と哀しみに支配された心を抱えながら、再び生きるために家族の生活の断片を拾い集めて書き記す。スリランカから英国に渡った経済学者による痛切な手記。(佐藤澄子訳/¥2,000)
【ザンビア】
『イースタリーのエレジー』 ペティナ・ガッパ
ザンビアで生まれジンバブエで育ち、オーストリア、イギリス、スイスにも暮らした作家のデビュー短編集。夫の葬式、トウモロコシを焼く匂いが漂う雨期、最後の冬、いくつもの泣き声と歌声。アフリカ大陸から届けられた13の物語を収録。(小川高義訳/品切れ)
【ドミニカ共和国】
『こうしてお前は彼女にフラれる』 ジュノ・ディアス
モテ男か、浮気男か、《道徳心のないクソ野郎》か。前作『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』に登場したユニオールを主人公に、叶わない恋と愛と愛の終わりを描く。現代アメリカ文学の旗手が贈る9つのラブ・ストーリー。(都甲幸治、久保尚美訳/¥1,900)
【ラトヴィア】
『ナターシャ』 デイヴィッド・ベズモーズギス
ユダヤ人の両親を持ち、旧ソ連ラトヴィアからカナダに移住した作家のルーツにも重なる、ロシア系移民の人生の断片を連作で。16歳で味わった初めての恋、犬に怪我をさせてしまった少年のひとつの運命の物語など7つの短編を収める。(小竹由美子訳/品切れ)
【セルビア】
『タイガーズ・ワイフ』 テア・オブレヒト
旧ユーゴスラビア、現セルビアの首都に生まれ、キプロス、エジプトを経てアメリカに移り住んだ作家が25歳で発表したデビュー長編。バルカン半島のとある国を舞台に、《不死身の男》と《トラの嫁》が立ち現れ、歴史と奇想が交じり合う。(藤井光訳/¥2,200)
【スペイン】
『アコーディオン 弾きの息子』 ベルナルド・アチャガ
ピレネー山脈の麓、スペインとフランスを結ぶバスク地方で使われる少数言語で書かれた長編。1930年代のスペイン内戦から続く暴力の歴史と、バスクに生まれた個人の回想が重なり、母語と母国、記憶と人生をめぐって物語は進んでいく。(金子奈美訳/¥3,000)
【ペルー】
『夜、僕らは輪になって歩く』 ダニエル・アラルコン
《ゲキサッカってなに?》と尋ねた少年は、十数年後、劇作家を夢見ながら俳優として小劇団に参加して各地を旅する。作家の生まれ故郷であるペルーの内戦の記憶を色濃くまとった架空の国を舞台に、7年間かけて書き上げられた二作目の長編。(藤井光訳/¥2,200)
【イスラエル】
『突然ノックの音が』 エトガル・ケレット
お話をせがむ物騒な男たち、ポケットをふくらませる小さな物品、噓から出たまことに出合える世界。奇妙で鮮やか、笑いの一瞬後に静かな哀しみが訪れる38編。《人間の状況》をヘブライ語で描き続ける、イスラエル人作家による掌編集。(母袋夏生訳/¥1,900)
Photo: Natsumi Kakuto Text: Hikari Torisawa