4月13日にスタートした『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系火曜夜9時〜)が5月18日の放送で折返しを迎える。脚本は、最近では映画『花束みたいな恋をした』が大ヒットした名手・坂元裕二。ドラマ、演劇に詳しいライター・釣木文恵が、ドラマの前半戦を振り返り、魅力の本質に迫る。
『大豆田とわ子と三人の元夫』の奇妙な魅力を考察。あらゆる人を肯定する、ただしあくまでもクールに
松たか子と複数の夫
2010年、松たか子は『2人の夫とわたしの事情』という舞台に出演していた。『月と六ペンス』などで知られるイギリスの作家、サマセット・モームの戯曲をもとに、ケラリーノ・サンドロヴィッチが上演台本と演出を担当した作品。第一次大戦後、最初の夫を戦争で亡くし、夫の親友と再婚した女性・ヴィクトリアが主人公。彼女は、夫がありながら、自分に気がありそうな第三の男・お金持ちのペイトンに色目をつかうのだ。
『大豆田とわ子と三人の元夫』というタイトルを知ったとき、まず頭をよぎったのはこの舞台のことだった。ドラマがはじまってみると、松たか子演じる主人公の大豆田とわ子はヴィクトリアのように贅沢三昧ではないし、三度結婚と離婚を経験しているが、男に頼らず色目もつかわず、ちいさな建築設計会社の社長として自分の足で立って生きている。けれどどこか抜けたところがあって、どこへでもジャージで行ってしまったり、ラジオ体操のテンポがどうしてもまわりと合わなかったり。最初の夫との間に生まれたひとり娘・唄(豊嶋花)がしっかりしているのが頼もしい。
欠点が裏返っていく気持ちよさ
三人の元夫は、それぞれにクセのある男たち。最初の夫・友人とレストランを共同経営している田中八作(松田龍平)はモテすぎて、なにかと女性とのトラブルを抱えがち。二番目の夫・カメラマンの佐藤鹿太郎(角田晃広)は、まわりから「小皿」と呼ばれているほど器の小さい男。三番目の夫・中村慎森(岡田将生)は理屈っぽくて極端に無駄を嫌う弁護士。
第1話ではとわ子のだめなところ、冴えない部分がいくつも描写されて、それでもしっかり生きている姿が描かれ、あっという間に彼女の魅力のとりこになった。2話では慎森のとわ子に対するまっすぐな思いと、離婚してなおいい関係を築く元夫婦の二人を見せられ、慎森の理屈っぽさがかわいく見えてきた。3話では鹿太郎の器の小ささが、「やってらんない」日々を乗り越えるための彼なりの術であることが見えて、彼が憎めない存在になった。そして4話。いまいち心が読めなかった八作が実は別の女性を思い続けていたことがわかり、彼の人間味が見えてきた。
たくさんの人と出会うなかで、どうも好きになれない人、自分とは合わない人というのがいる。けれどもそういう人たちの欠点に見えるところも、別の角度から見れば魅力になり得たりもする。『大豆田とわ子』は、あらゆる人を肯定する。といってもその肯定は、甘ったるくやさしいものではない。どこまでもたんたんと、クールに。
ドラマに出てくる海はさわやかでキラキラして見えるけれど、実は潮風で肌がベタベタするし、フナムシもいる。その、潮風とフナムシの方まで描いてなお「それも悪くない」というのが、このドラマなのだ。
独立した大人たちの関係性
5話のラスト、とわ子がプロポーズの形で取引先からとんでもないパワハラを受けたうえ、八作との離婚の原因となった「別の好きな人」がとわ子の親友・かごめ(市川実日子)だったことも知ってしまい、姿を消す。三人の元夫はとわ子のことを心配するが、三人にはそれぞれに新たな出会いもあって、とわ子のことだけを考えていられる状況でもなかったりする。
戦争の空気が色濃く残るイギリスを舞台に、男に頼って生きている女を描いた『2人の夫とわたしの事情』では、主人公のヴィクトリアが家を去り、2人の夫が乾杯するところで終わる。それぞれに一人で生きていく力を持ち、欠点と魅力と内包した21世紀の日本の大人たちは、これからどう関わっていくのだろうか。
『大豆田とわ子と三人の元夫』公式サイト(カンテレ)
脚本: 坂元裕二
演出: 中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
出演: 松たか子、岡田将生、角田晃広、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン 他
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator まつもとりえこ
イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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