見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
さまざまなかたちの友情が在る場所。あの本の舞台になったのは? 朝倉かすみ『てらさふ』

『てらさふ』(14)
朝倉かすみ
オタモイ海岸(北海道小樽市オタモイ4丁目)
北海道小樽市の外れの町オタモイに住む小柄な少女・堂上弥子は、常に怒りのような気持ちを抱いている。どうして誰もわたしのすばらしさに気づかないのだろう?その憤りを一目で見抜いたのは、札幌から転校してきたヤンキー系の美少女・ニコこと鈴木笑顔瑠だった。中2になる前の春休み、ちいさな塾で出会った2人は「手を組む」ことを決める。お互いの願望を満たし、スーパースターになるため2人が立てた計画は「高校生のうちに芥川賞を獲る」というものだった。
オタモイという地名は、アイヌ語のオタ(砂浜)とモイ(入り江)に由来すると言われている。名前の通り海岸線を持つ町で、翡翠色の美しい海を巨大な奇岩が縁取っている。昭和初期には「夢乃里」と称された遊園地があり、1日数千人が訪れる北海道屈指のリゾート地だったとか。特に、空中にせり出すような3階建ての高級料亭「龍宮閣」は大きな話題に。その後火事で全焼してしまい、遊園地も廃業。物語の中で弥子はこの遊園地跡を「『千と千尋の神隠し』みたいな風情の景勝地だ」と形容している。現在は海上からのみ、その名残の一部を眺めることができる。
『てらさふ』(14) 朝倉かすみ 文春文庫/¥897*電子書籍
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text: Hiroko Kitamura Edit: Tomoko Ogawa