20世紀以降、白い建築が多く見られるようになったのはなぜだろう?
「近代以前に白い建築がまったくなかったわけではないですが、18世紀にヨーロッパで古典主義やパルテノン神殿など古代ギリシャ建築が再発見されると、文明の起源としての建築と大理石の神殿のピュアなイメージが結びつき、白こそ素晴らしいともてはやされました。実際には多くの神殿はもともと大理石に加彩されており、色が剝げて白く見えただけなのですが。そして19世紀になると衛生学や医学が発達し、病院だけでなく住まいも清潔で衛生的であることが推奨され、汚れが目立つ白を取り入れるようになりました。
ル・コルビュジエはサヴォア邸の一般人向けのPR映画のなかで健康的な生活の重要性を述べ、採光十分な明るい部屋や、ピロティで居住空間を地面から離して湿気を防ぎ、屋上で太陽を浴びて体操ができることを紹介しています。同時に、ゴシックやバロックなど前時代の様式主義とその装飾性を否定して、抽象的な形の組み合わせや構成こそが建築デザインの見どころであると考えられるようになります。これがモダニズムの始まりですが、装飾や素材感よりも建築の構成そのものを見せる際に余計な色彩は不要で、ニュートラルな白が好まれたのです」
近代に“新建材”としてコンクリートが再登場したこともひとつの要因だ。
「コンクリートと白は相性がよかった。石や木で石工や木彫家が装飾的な建築を作るよりも、コンクリートの方が工期も短く、安く済みます。近代が求める合理主義に徹した建築を効果的に見せる色が白だったのです」
解説_
五十嵐太郎(建築史家)