大どんでん返しがあったわけではない。二人は、あくまでも冷静に道を選んだ。しかし、そんな最終回で描かれた内容があるとないとでは、このドラマの印象は大きく変わる。
同棲している家でいつも料理を作って待っている彼女・鮎美(夏帆)。思い描いていたとおりのシチュエーションでのプロポーズを断られ、別れを告げられた勝男(竹内涼真)。
彼女の気持ちを知るために、それまで全く料理をしたことのなかった勝男が筑前煮を作り、その手間の多さとかかる時間を知るところから物語は始まる。特に前半は、勝男が新たな体験をして価値観を更新していくさまが中心に描かれていった。勝男は肌着一枚で料理をし、時にはそのまま外に出る姿もすっかり板についていった。きれいな広い家に住む勝男だが、エプロンをしたり調理器具を揃えたりといった形から料理に入るのではなく、毎日の仕事から帰ってそのまま料理をする姿が描かれていたのが好もしかった。その象徴があの肌着姿だったように思う。
一方で、勝男と別れてすぐにつきあうことになったミナト(青木紬)に対して、結局勝男の時と同じように料理を作って待ったり、元カノと接触するミナトの行動に嫉妬の感情を覚えつつも言い出せなかったり。鮎美の方は思い切って髪をピンクに染めても、なかなか変われない様子が描かれていた。
後半、鮎美のターンが訪れた。頼まれて太平(楽駆)の店のイベントで料理を提供する。その料理を味わった人(川上友里)から店を出さないかと持ちかけられる。結局それは詐欺だったけれど、痛い目を見た代わりに、鮎美は心の内にあった「やりたいこと」に気づいた。こんなことがなければ、やりたいことを見つけたとしても、仕事を辞める決意はなかなかできなかったかもしれない。
1話のラストからずっと感じていた。今の勝男なら、復縁してもきっとうまくいく。その思いが叶ったのが、最終回だった。勝男の告白を受け、二人は再び付き合い始める。鮎美は飲食業への転職を決意したものの、経験がないことから全滅。やがて太平のバーを間借りすることを思いつき、そのための準備や原価計算などに苦しみながら取り組む。そんな鮎美を、ちょうどパワハラの疑いで休職を余儀なくされていた勝男は料理を作って支える。そのことに喜びや充実を感じていた。でも、それは今まさに一人で立ちあがろうとしている鮎美には邪魔だった。勝男は今度こそ、自分から別れる決意をする。
復縁した鮎美が二人で暮らすのに十分な広さの勝男の家に戻らなかった時点で、彼女はもう、ミナトと付き合ってすぐに彼の家に転がり込んだ頃とは違った。鮎美における開店準備は、初期の勝男における料理だったとも言える。一度一人で立って歩いてしばらく経てば、「得意な方がやる」というやり方、頼り方もあることがわかるかもしれない。実際、勝男は仕事で部下に頭を下げて頼るというやり方を手に入れている。けれど、まさに今一人で立ち上がったばかりの鮎美には、まずは自分でやってみることが重要なのだ。その段階の鮎美には、「やってあげる」は自立を阻むことに他ならない。
男女が入れ替わっても、問題は解決しない。一人ひとりがちゃんと自分の足で生きていくために歩み始める、そのことにこそ大きな価値がある。それが描かれていた最終回は、このドラマの魅力をさらに押し上げた。