先日行われた2018年春夏のパリコレクションでひときわ話題を集め、思わず目をこすった、あのコレクションと、あの少女漫画のお話です。
コム デ ギャルソンと高橋真琴 パリコレから西武渋谷店へ走れ!
西武渋谷店A館7F特設会場。パリコレ帰りの人は今、一番走りこむべき場所ではないだろうか。10月22日まで開催されている「高橋真琴の原画展」。「きらきらと輝く瞳、華やかさの中にも凛とした愛くるしさがある少女の姿。国内外に多くのファンを持ち、60年以上にわたり幅広い世代を魅了し続けている少女絵画家・高橋真琴氏の代表作」(HPより)。高橋氏は1934年生まれの御年83歳、「小学一年生」から始めて「少女フレンド」「週刊マーガレット」「りぼん」など当時の少女向け雑誌の表紙を飾り、数々のイラストを描いてきた。日本の女の子たちの心に深く焼きついた少女漫画の世界、そして後に世間を席巻するKAWAIIカルチャーの源流ともいえるかもしれない。
『あこがれの世界』BRUTUS 表紙掲載(2001年) ©︎MAKOTO
『おしゃれ図鑑』ノート パリジェンヌ表紙絵(1973年) ©︎MAKOTO
9月30日、パリのロシア大使館の天井にはギッシリとガラスのシャンデリアが埋まっていた。〈コム デ ギャルソン〉のショーが始まる前の独特の緊張感が会場を埋め尽くしている。ただ、今回の会場のクラシックなエキゾチズムに、観客は今までにない何か不思議な高揚感も感じていたのではないかと思う。果たして、ショーが始まった時に流れてきた音楽は、なんとFKAtwigsだったのだ。今まではショーの内容に応じてではあるが、比較的アノニマスな現代音楽であることが多かったのに(無音のことすらあった)今をときめくFKAtwigsとは…。そして登場したファーストルックに、全員があっ!と思ったはずだ。コンセプチュアルで難解なイメージさえあるギャルソンが、あまりに有名なアルチンボルドの絵を大きくプリントしたものだったから。
そしてその後に続くさまざまなアーティストのコラボのプリントの数々。中でも我々日本人の観客が特に目を見開いたのが、高橋真琴の描く少女の顔のドレスである。グロテスクなほどに大きくプリントされた艶やかな乙女のイラストに少なからず動揺した。プリキュアやキティちゃんのようなモチーフのガラクタ・アクセサリーを首や頭いっぱいに飾るモデルたち。お茶の間、幼稚園、白いレースのカーテン、「大きくなったらお嫁さんになるの」……そんなドメスティックな昭和の少女を象徴する絵の発する華やかな狂気に、ファンタジックな畏怖を感じた。
川久保さんはかねてより「多くの人がよかったと思うものは普通だったということ。それは強さが足りなかったということ」とコメントしており、“大多数の賞賛“を受けることを求めていない。毀誉褒貶、人々にさまざまな感情を巻き起こすもの。今回のテーマは「マルチディメンショナル・グラフィティ」(立体的なグラフィティ)で、プリントを見せるために2次元を3Dにしたというものだが、いつものような複雑な構築物ではなく、グラフィティの迫力が伝わってきた。高橋真琴、ジュゼッペ・アルチンボルド、スティーブン・マークス、雪村周継…わずか15体のルックのために選んだこれらのアーティストにおそらく共通性はない。そのあまりのランダムさはまるで現代のカオスを見るようだが、15人のモデルたちは皆、キッチュな飾りや背中に羽をつけてあたかも少女の夢を背負っているかのように立っていた。
そして、甘い毒の入った媚薬を飲んだようなコレクションのフィナーレに流れたのは、バーバーの「弦楽のためのアダージョ Op.11」、いわゆる葬送曲(ジョン・F・ケネディの葬儀で使われた曲でもあり、昭和天皇の崩御の際にも演奏された)だったのだ。
【高橋真琴の原画展】
〜ロマンティック乙女スタイル〜
会期:10/3(火)〜22(日)
会場:西武渋谷店 A館7階=特設会場
営業時間:10:00〜21:00 ※日・祝休日は午後8時まで。※ご入場は閉場の30分前まで。※最終日は午後5時閉場。
入場料:一般・大学生 500円(税込)※高校生以下無料 ※西武・そごうモバイル/インターネット会員さま・障がい者手帳各種ご提示で、ご本人さまと同伴者1名さままで無料でご入場いただけます。※クラブ・オン/ミレニアムカード会員さま、西武・そごうアプリクーポンご提示及び西武渋谷店LINE@友だちに限り、特別ご優待300円にてご入場いただけます。
Text: GINZA