今モード界を牽引している〈バレンシアガ〉と〈セリーヌ〉に、ヴィンテージが何らかの役割を果たしている部分があるような気がしている。 ウィットを効かせつつ、おなじみの既製品を豹変させたり、意外なものと組み合わせたりすることで、つねに驚きを与える前者。 毎日の生活の中で触れるもの、感じることを自らの中で咀嚼し、丁寧にものづくりへと反映させている後者。 ヴィンテージをただ再現したり、アレンジしたりするのではなく、それぞれのアプローチの仕方で、とことん向き合っているに違いないのだ。 ヴィンテージ好きが愛する要素を擁しながらも、新しい。ぜひ、そんな彼らの服をじっくり見てみてほしい。
〈セリーヌ〉ヴィンテージとの関係性を読み解くための試論

〈セリーヌ〉は、多様な女性たちのリアルなライフスタイルに寄り添う。スーツケースから取り出したばかりの時についている折りじわ、着古したニットの毛玉、家でかけた、けっしてうまくないアイロンのあと。クリエイティブ・ディレクターのフィービー・ファイロは、日々の中で生まれる完璧ではないそれらも愛おしみ、大事にしながら新しいものづくりをしたいと思っているのではないだろうか。大きめのジャケットのピークド・ラペルの下や袖には、プレスのあとがくっきり残っている。2枚目の写真のヴィンテージジャケットは、あえて洗いをかけ、しわを残したまま店頭に出されていたもの。
CÉLINE+VINTAGE
ネイビーのウールフェルトジャケット 30万5000円、パンツ 17万円、ピアス*参考商品(以上セリーヌ | セリーヌ ジャパン)/中に着た1990年代のバラクータのブルゾン〈G9〉1万8000円(デイビッズ クロージング)
VINTAGE
洗いをかけた1950〜60年代のジャケット ¥24,000(フックド ヴィンテージ)/中に着た1980年代のナイキのジャケット ¥13,800(カメレオン ウェアー ハウス)/1950〜60年代のタートルニット ¥5,537、1950年代のオーストラリア軍のパンツ ¥13,704(共にオルゴー)/リング*モデル私物
Trench coatソフトなウールで、オーバーサイズ。前立てが中心からずれているシングルブレスト。一見トレンチだとは思わないかもしれないが、肩のエポーレットや襟裏に付いたベルト、背中のストームシールドとDリングなどでそれが元になっていることに気づく。袖口に加え、インナーの両足元には本来馬に乗る際に足を固定するためのタブが付いている。トレンチが登場したのは第1次世界大戦の時と言われているが、かなり古いディテールを採用したようだ。スタンダードをじっくり眺めてそこから取捨選択や微調整を重ね、時間をかけて自分のものに変容させていっているのだろう。
CÉLINE+VINTAGE
コート 45万5000円、ラムスキンのフード 23万5000円(共にセリーヌ | セリーヌ ジャパン)/1970年代のサイクリングジャケット 3900円(アポロ)/1900年代のペチコート 1万5200円(ジャンヌ バレ)
肩のエポーレットからミリタリーを意識していることがわかる。そうすると、前立てに付いている長方形のタブは、フライトジャケットのフロントジッパーの横に付けられる、酸素マスクを固定するためのオキシジェンタブから来ているのだろうか?いやしかしこのオンブレ・ストライププリントは何だろう。アメカジのような気もするし、はたまたエスニックな薫りだってしてくる。〈セリーヌ〉として完成された服の解釈は、いつも一筋縄ではいかない。
CÉLINE+VINTAGE
コットンにシルクを掛け合わせたシャツ 17万円(セリーヌ | セリーヌ ジャパン)/1990年代のデニム〈リーバイス501〉7900円(トランポット)/1950〜60年代のベークライトのバングル上:3200円、下:2200円(共にジャンヌ バレ)/シューズ 2万1800円(リプロダクション オブ ファウンド | レショップ)
Photo: Katsuhide Morimoto Styling: Dai Ishii Hair: Kiyoko Odo (KiKi inc.) Make-up: UDA Models: Beatrice, Yuliya, Anneke, Manon, Emma, Lorraine, Maria Text&Edit: Itoi Kuriyama