“機能美と造形美の相乗効果”を追求するフットウェアブランド〈カチム〉が、フォトグラファー・ニコ ペレズ氏による写真集『The Backstage』を限定販売。ブランド初期にあたる2016年から2019年に撮影した製作現場の写真をまとめた理由とは?
〈カチム〉がブランド初の写真集「The Backstage」を発売
靴製作の裏側にフォーカスし、職人たちの情熱を伝える
小坂英子氏が率いる同ブランドは、日本人の足に関するデータを収集し、解析・算出した数値を基に木型と型紙の開発を完全社内オリジナルにて行ってきた。立っているときと歩いているときの足の形状変化にも対応させるなど、現代人のライフスタイルを考慮した設計で、ヒール靴であっても疲れ知らずと評判だ。
この〈カチム〉が、この度、初の写真集『The Backstage』を発売するという。掲載されるのは新作シューズではなく、ブランドの物語が始まった2016年から2019年の間に靴の製作に携わった、職人や資材の生産者、そして彼らの工房がある浅草の景色。
「〈カチム〉をスタートさせたとき、その量産を担う工場探しから困難を極めました。少量受注生産であるうえ、扱いが難しくて単価が高い素材を用い、持ち込みのオリジナル木型で組み立てて欲しい。こんな発注は、バルクプロダクションに慣れた工場にとって馴染みのないもの。ましてや無名の私たちですから、門前払いされることも少なくありませんでした」と小坂氏。
浅草では、人と人をつなぐことが大きな意味を持つと感じた小坂氏は、人伝いに、少しずつ信頼関係の構築を進めたそう。こうしてファーストコレクションの量産を了承してくれる職人やサプライヤーに出会い、彼らとともにブランド初期の3年間を駆け抜けた。この奮闘の様子を、フォトグラファー・ニコ ペレズ氏に記録してもらっていたのだと言う。彼らの工房が観光地や劇場で賑わう喧騒から少し外れた裏通りに位置していて、シューメーカーは裏方に徹する存在であることから、舞台裏を意味するBackstageと題し、記録写真を一冊の本にまとめた。コロナ禍を経て、事業縮小や、職人の引退・他界もあった靴製作の現場。2024年の今こそ、彼らの姿を見てもらいたいと小坂氏は話す。
「誰しもがそれぞれの信じる道を歩く中で、立ち止まることもあると思います。迷いから抜け出すときに浮かぶ景色、見えないところで支えてくれる人びとの飾り気のない素顔、彼らが贈ってくれたメッセージが呼び起こされるようなイメージをテーマに写真を厳選しました」
黙々と、確かな手つきで作業をする職人たち。完成したシューズを履き、凛と立つモデル。1枚1枚の写真からあふれる静かな情熱に心打たれる1冊となっている。
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ニコ ペレズ
1986年、スペイン・マラガで生まれる。幼少期にイギリス・ロンドンに移住し、スペインとイギリスを行き来しながら子ども時代を過ごす。2008年、初めて訪れた東京で、街の「青い」空気感や都市の孤独感にインスピレーションを受ける。2009年、ロンドンで開催された写真家・川内倫子氏のワークショップのメンバーに選ばれ、写真家になることを決意し、東京に移住。2015年、初の写真集『Momentary』を発売し、同時に個展を開催。以降、個展「Stills from life」(16)、「Kingsland Road」(18)、「Chasing Blue」(19)、「離れる|Take Off」(21)、「Havana, Cuba “The Reprint”」(21)、「Let me be what I want to be」(22)を開催する。現在は東京を拠点に活動中。
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写真集『The Backstage』
2024年5月13日(月)より公式オンラインストアにて発売。¥3,850。
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Text_Ayako Tada