普段は新聞や週刊誌で30・40代男性向けの記事を書いてるアラサーライターの僕が、なぜか突然GINZA注目のニュージェネレーションが案内するホットスポットに連れていかれてみるというこの連載。上野広小路の古着ショップ、渋谷の隠れ家カレーショップときて、今回は高円寺の”古本酒場”なるお店ということで…また新たな世界を覗ける予感!
アラサーライター(♂)が行く! 現役美大生でモデルの徳永咲子ちゃんと高円寺の古本酒場「コクテイル書房 」で待ち合わせ
◼︎武蔵野美術大学に通う22歳のモデル・徳永咲子ちゃん登場
この日、高円寺の商店街の一角で出会ったのは、高円寺の商店街で待っていたのは中央線感薄めのモード系モデル・徳永咲子ちゃん(22歳)。でも、事前にインスタでチェックしていたクールな雰囲気とはちょっと違って、すでに人懐っこい印象。
「よく言われます(笑)。モデルとして写真を撮られている私は、普段の自分と全然別物なんです。でもいろんな顔があった方が面白いと思うので、これからモデル以外の仕事に挑戦してみたりして、どんどん違う自分を増やしていけたらと思っています」
さすが現代っ子、なんか器用そう!そんな咲子ちゃんは、現役の美大生で武蔵野美術大学の4年生。テキスタイルデザイン専攻だから、勉強も兼ねて古着屋巡りをよくしてて、高円寺も常連なんだとか。
「今日の服も高円寺の古着屋で買いました。コーデのテーマは…『おばあちゃん世代にいそうな人』です」
普段なら「若い子の考えることはよう分からん」と思うところだけど、今回のホットスポットならそのテーマにも納得!
◼︎案内されたのは、古本酒場「コクテイル書房」
「改めて、今日ご紹介するのは、古本屋と居酒屋が一緒になった”古本酒場”の『コクテイル書房』さんです。古本を読みながら店の中でお酒をしばけるんで、友達と来て『この言葉すごいよね…』とか話しながら、楽しい夜を過ごせるんです」
そんな咲子ちゃんオススメのこのお店…入店してまず驚いたのは、その古めかしさ!なんでも大正時代の終わりに建てられた築100年以上の一軒家をそのまま使ってるとのこと。そこに味のある古本がずらりと並んでいて、座敷席には囲炉裏もあったりするから、風情豊か。こりゃおばあちゃんっぽいコーデで来てみたくなる気持ち、分からなくもないかも。(若い子がやるからこそ似合うんだろうけどさ)
初めて来たきっかけは?
「最初は古本交換をしに来たんです。このお店、常設の”交換棚”があって、古本を1冊持ってくると、その棚の古本を1冊持って帰れるんです」
何を持ってきて、何を持って帰ったの?
「私のお気に入りで何周も読んだことのある、父の奥田英朗の小説を持ってきて、”時間”に関する文献を持ち帰りました。私の父、小学校の教員で、よく『これいいよ』って本を渡してくれるんですけど、それが刺さって何周も読むことが多くて。何回も同じ部分を読むと、それが自分の言葉になっていったりもするんで、いい本を教えてもらえるのはすごくありがたいです」
お父さんの本を交換しちゃったことは置いといて、思春期の女の子なのに、家族とちゃんとコミュニケーションとってることは偉いね。
「はい。私、父のことを『シュンジさん』、母のことを『ケイコさん』と呼んでいるんです。両親に『自立しなさい』と言われ始めた頃から、だんだん2人のことを一個人として見るようになって。だから、普通の親子として仲がいいというよりは、一人の人間同士として仲がいいという感じかもしれません。」
不思議な関係!まぁとにかく、そのお父さんの影響で幅広い時代の本を好きになったとのことだけど、古本屋の魅力って?
「普通の本屋では見かけない本に出会えるのはもちろん、そこで手に入れた本って、自分だと全然気にならないところに前の持ち主が線を引いてたりして、『なんでここに線を引いたんだろう。どんな人だったんだろう』と想像するのも楽しいです。今読んでるこの本(高村光太郎の詩集)も、ここで買いましたが、謎の線だらけなんです」
ちなみに彼女が使っているブックカバーは、友人が誕生日に贈ってくれた映像作家 島田大介さんの作品。古本もオシャレに読みこなしちゃうあたり、さすが!と、ここで注文していた料理が登場。
「このお店の料理は”文士料理”と名付けられていて、どれも作家や作品に関連させて創られているんです。登場する料理を先に食べてからその作品を読むという、新しい読書の楽しみ方もできちゃいます。」
ということで、本日注文した3品をご紹介。
「貝焼き」:太宰治『津軽』の中に出てくる津軽地方の郷土料理。ホタテの貝殻の上に魚介類とネギを乗せて玉子とじに。太宰治自身も風邪を引いたときなど、栄養を摂りたいときに食べていたという!
「大正コロッケ」:女優・檀ふみのお父さんで小説家の檀一雄の料理本『檀流クッキング』で紹介されている、オカラと魚のすり身を使ったコロッケ!「茄子にんにく炒め」:武田百合子『富士日記』の中に出てくる一品。その名の通り茄子とにんにくが大胆に炒められている!
そんな背景も調味料となって、どれも非常に美味でした!ところで、咲子ちゃんも本を参考に料理したりするの?
「実家暮らしなんで、料理自体まったくしないんです。小学生のとき『ぐりとぐら』を読んでオムレツを作ったことはありますが」
自立はまだちょっと遠そうだね〜。でも小さい頃に読んでいた絵本が一緒でなんだか安心したアラサー。と、ここで、少し酔ってきた咲子ちゃんから意外な告白が。
「実は私、あのカウンターにひとりで座るのが夢で…まだ座ったことないんです。いつも友達と来るからっていうのもあるんですけど、それより店長さんがイケてるから、勇気が出なくて。いつも本買うだけで緊張しちゃって、きちんと話したこともないんです」
と言われて見ると、カウンターの中に40代の”侘び寂び”感強めの男性店長が…一切ギラギラしてないし、”イケてる”って印象とはむしろ逆っぽいけど?
「まずこの空間を作り出したっているのがイケてるし、寡黙に料理してて必要以上に言葉を発しないけど、確固たる哲学を持っていそうなところもイケてます!!」
僕の知ってる「イケてる」とは若干ニュアンスが違うけど…店長さん、そう言われていますよ。
店長「確かに『話しかけづらい』と言われますし、あまり声はかけられないですね。カウンターに座るお客さんも、僕とというよりは、お客さん同士で話すケースが多いです」
…声が小さくて、これはちょっと怖い!あの、なんでこの形態のお店を始めたんですか?
店長「最初のスタートは19年前、国立に作ったただの古本屋でした。でも、いつの間にか学生の溜まり場になって、酒盛りまで始まっちゃって…」
学生たちが勝手にですか?
狩野「いや、僕が『一緒に飲もう』と誘って」
あれ?実は優しい人っぽい!それから、なんでこの古い一軒家に引越したんですか?
「ディズニーランドのカリブの海賊が、本物の古い時代の海賊になったようなもんですね。昔から古いものが好きで、以前の店もなんとなく古さを装ってはいたけど、実際にはそこまで古くなくて。で、本当に古い建物が見つかったから引っ越した。古いものって、ゆったりとした時の流れを感じられるから好きなんです」
なんか面白い比喩も使ってくれる。さらに、お店の古本を全部読んでいるのか聞いてみると。
「そんなことできる古本屋はほとんどいないんですよ。八百屋は食べなくてもリンゴの良し悪しが分かるように、古本屋は読まなくても本の良し悪しが分かるんです」
あ…ちょっと怒らせちゃったかも、と心配したけど。
「…とハッタリで言ってるだけですね」
やっぱりいい人だ!咲子ちゃん、大丈夫そうだから、ひとりで飲んで帰りなさい!
ということで、若い子の感覚やノリに合わせなんかしなくても、”イケてる”と言ってもらえる可能性があることに勇気をもらったアラサーでした。
徳永咲子 / Sakiko Tokunaga
美大入学当初は髪を紫に染めていた、道徳の授業を落として先生に「あなたは不道徳」と言われた…など、まだまだいろんな顔を隠している様子の咲子ちゃん。ひとまず今回の取材で見せた姿とは異なるクールな彼女は、インスタ @saci_o で見られるよ!
「コクテイル書房」
杉並区高円寺北3-8-13 北中通り商店街
17:00~23:00
水〜日はランチ(11:30~15:00)も
無休
Text:Takeshi Koh Photo: Kanna Takahashi