〈ジル・サンダー〉といえばミニマルで知的なブランド。そのクリエイティブ・ディレクターが2017年4月に代わり、2018年春夏、新体制で初のランウェイショーを行なった。GINZAでおなじみの自称モード界のご意見番プロフェッサー栗山が新生〈ジル・サンダー〉の知っておくべき6つのポイントについて解説する。
おしゃれ夫婦善哉、新生〈ジル・サンダー〉6つの特徴。2018年春夏パリミラノコレクションレポートMilan 05
1.新クリエイティブ・ディレクターは数々のラグジュアリーブランドで経験を積んだ妻と、ストリートのカリスマの夫。
こちらが新たにクリエイティブ・ディレクターに就任したルーシー、ルーク・メイヤー夫妻だ。このすてきなお2人はどういった方たちなんでしょう…と思ったあなた。説明しよう。
まずはルーシーさん。マーク・ジェイコブスが手がけていたころの〈ルイ・ヴィトン〉、ニコラ・ジェスキエール時代の〈バレンシアガ〉、ラフ・シモンズ率いる〈ディオール〉で腕を磨き、ラフ退任後は〈ディオール〉の共同クリエイティブ・ディレクターを務めている。名だたるブランド、モード界のスターたちと関係を築いてきたエリートだ。
一方のルークさんはオックスフォード大学で経営学を学ぶなど、かなりのインテリ。〈シュプリーム〉のヘッドデザイナーを経て、メンズブランド〈OAMC〉を立ち上げた。〈OAMC〉はストリート仕込みの精神を持ちながらラグジュアリーブランドを意識してパリコレでショーを行なうなど、独自のポジションを確立している。
2.ブランドイメージを守りながら、2人らしさも垣間見えたショー
じゃあそんな2人がどんなショーを行ったの?といてもたってもいられなくなったに違いない。洋服はこんな感じだ。プリーツが施された真っ白なコットンポプリンのシャツドレス、タイトな肩幅のジャケットにテーパードパンツのスーツ、鮮やかな差し色、マクラメのディテール。ジル・サンダー本人が手がけていたころのムードに基本的に寄り添っているが、慣例となっていたオフィスでのショー開催をやめ、会場に開業間近のオープンエアのショッピングモールを選択するなど、うっすらストリートの要素も盛り込んでいた。
3.新生アイコンバッグ
ランウェイ上ではもう一つの変革も起こっていた。バッグである。2013年プレフォールにジル・サンダー自身がデザインしたアイコンバッグ「トゥーティー・バッグ」が再考案されたのだ。ハンドル位置がトップからサイドへずらされ、本体はひだによって3つに仕切られている。
なお、1月24(水)〜29(月)、2人が最初に手がけた2018年リゾートコレクションのバッグを伊勢丹新宿店本館1階プロモーションスペースで見ることが可能だ。アーカイブを生まれ変わらせた「ジル・バッグ」や、伊勢丹新宿店限定色の「エッジ・ショッパー」も手に入る。
4.広告キャンペーンはあの映画監督とコラボレーション
ライブで立体的に表現するショーに加え、写真で見せる広告キャンペーンもクリエイティブ・ディレクターの描くイメージがつかみとれるので注目すべき要素だ。彼らは映画監督のヴィム・ヴェンダースを起用し、ドイツ・ベルリンでムービーを撮影している。
キャスティングやロケーションからドイツ発のブランドであることを意識しているであろうことがわかる。ルーツを見直そうという新人らしい意気込みが見受けられるが、「エピソード1」から「エピソード5」までを順に公開し、それぞれ次どうなる?!というところでブツッと切れてしまうという内容には新たな〈ジル・サンダー〉像が感じられるような。これまでであればストーリーは設けずにアーティスティックな美しい映像にしていそうだ。
5.ロゴプリント
「これまでにないかも」という点はまだある。服にロゴプリントが使用されているのだ。それもがつんと。
2018年プレフォールコレクション
ランウェイには登場しなかったのだが、2人が初めて手がけた2018年リゾートコレクションでお目見えし、発表されたばかりの2018年プレフォールコレクションでも使用されている。ロゴをここまでフューチャーするのはシンプル、ミニマルで貫き通してきたブランドにおいては意外性のあること。これまでロゴは慎み深くそっと刻んであるようなイメージだったが、それをデザインとして表舞台に連れ出した。ストリートカルチャーの風を感じるポイントだ。
6.新プロジェクトも始動
加えてアーティストやフォトグラファーとコラボレーションする「Interpretation Project」も始まった。第一弾のゲストはフォトグラファーのマリオ・ソレンティ。2018年春夏コレクションを身に纏ったモデルたちの写真がTシャツにプリントされている。
伝統的なブランドにおいては、それまでのイメージを保ちつつ、いかにクリエイティブ・ディレクターらしさを出せるかのバランスがいつも問題になる。新生〈ジル・サンダー〉は、メインコレクションではしっかりとブランドの核を見せ、それを展開させる部分やプレコレクションでユーモアやキャッチーさ、ストリートカルチャーを匂わせていていい塩梅に見える。経歴もテイストも異なる夫婦。率直に客観的な意見を言い合えているんだろうなあ。一日中ずっと一緒でも、とっても仲睦まじいらしい。今後も2人の共同作業を期待しています。
Text&Edit: Itoi Kuriyama