「うるめいわし」という名前の理由を知っていますか。
私は、初めて聞いたときびっくりして、すごく感動した。
目がうるんでいるから。
その通りだ。うるめいわしの目はたしかに潤んでいる。鱗が青光りしているので、丸い大きな目はうるうる。それを見逃さず名前にするのだから、先人のセンスはすごい。
うるめいわしは寒い時季に味がのる。青みがかってぴんぴん張りのあるのを手開きにして焼いたり、揚げてフライにしたり。うまみが詰まっている魚だから、あまり手をかけないほうがいい。カタクチイワシやマイワシなど同じいわしの仲間よりグルタミン酸の含有量が図抜けていると知ると、なるほどなあと思う。
その美点を凝縮させたのが、うるめいわしをカチカチに干した乾物だ。私はこれが好きすぎて、うるうるというより涙目。居酒屋の品書きに「うるめいわし」と書いてあると、ワカッテマスネと身を乗り出す。こんがり焙った熱いのを指に持って噛みしだいていると、さあなごみの時間の始まりだとうれしくなるし、噛めば噛むほど味がじわじわ染み出てくるので、ぬる燗のうまさもハネ上がる。地味だけれど、うるめいわしは欠かすことのできない酒の友だ。
あるとき、酒肴がすこぶるうまい料理屋のカウンターに鉢が並んでいた。ひとつずつ見てゆくと、やや!
身を乗り出して店主に訊くと。
「うるめいわしの酢炊きです」
すかざず注文した。店主は、「これを頼んでくださってうれしい」と、小鉢に7、8尾ほど取り分けてくれた。「自分が好きな料理なのでいつも置いておきたいくらいなんですが」と言いながら。
細っこい身を囓ると、まず酢の酸味が広がる。追いかけて、とても濃いうまみ、ほろほろと崩れる身。ナマつばが噴き出てくる。小指ほどの小さなうるめいわしに詰まった豊かな味がとても贅沢だ。
作り方はとても簡単です。
①うるめいわし20尾ほど小鍋に入れ、ひたひたの量の酢を注ぐ。
②6〜7分中火で煮て、酢だけ捨てる。
③調味料の目安は醤油大さじ1強、酒大さじ1。かぶるより少し多めの水、タカノツメを入れて15分ほど中火で煮て、冷ます。
最初に酢で煮るのは、硬く締まった身や骨を柔らかくする効果を期待してのこと。と同時に、ほどよい酸味が染みこんで、おつな味わいに転じる。
日持ちするから多めに作っておいて、一日何尾かどうぞ。とにかく簡単、ミネラルやカルシウムたっぷり、口さみしいときにも。
最強の作り置きです。