小さな料理 大きな味 ⑫
パセリのチヂミ
ちょこんと添えられたパセリは〝残すもの〟だと思いこんでいた「パセリ暗黒時代」がある。あじフライ定食とかスパゲッティ・ナポリタンとかサンドウィッチとか、脇にひっそり控えている小さな緑。たいてい手つかずのまま残っているので、アレを食べないのはマナーなんだと思いこんでいた二十代前半の頃の話。
いまは、パセリが登場すると「待ってました!」と思う。いつ食べようか。もったいなくて、口に運ぶタイミングを密かに推し量るのも楽しみのひとつだ。
八百屋に寄ると、パセリに手が伸びる。私にとって、大束のパセリは玉ねぎやにんじん、じゃがいもと並ぶ常備野菜だ。または、油揚げと同じく手元にないと落ち着かず、もはや長所しか思いつかない耽溺状態。そのくらい頼っている。
炒めてよし、煮てよし、生のまま和えてよし。どんな料理にも役立てられるので、大束を買ってもすぐ消えてしまう。肉といっしょにソテー、ざっくり刻んだのをオリーブオイルで大量に炒めて肉や魚に付け合わせ、煮込みやスープ(ミネストローネには欠かせない)に入れると、だしが出て味がぐんと深まる。いつもスイッと助け船をだしてくれるパセリは家庭料理の影の主役くらいに思っている。
ある土曜日の朝。トーストを食べようと思ったらパンがなかった。手軽にすませたいな。そうしたら例によってパセリの顔が浮かんだ。
チヂミにしてみよう。
とっさの思いつきを自画自賛し、すぐ作った。調理時間6~7分。食べて感嘆。自分に、ではなくパセリに。チヂミという料理に。