小さな料理 大きな味 39
アボカドの可能性
「これ、二年前にスーパーで買った種から育てたの。すごいでしょう」
遊びに行った友だちの家の居間の窓ぎわ、自然光を浴びている鉢植えの木。すくすく伸びて長さ一メートル半ほど、細長いグリーンの葉が観葉植物のパキラに似ている。パキラなの?と訊くと、ううん違う、とFさん。
「アボカドなの。食べたあとの種の底を球根栽培みたいに水に浸しておいたら、白い根が出てきた。種ごと土に植え替えて、ずっと育ててる」
もう可愛くて家族の一員よと言うのを聞きながら、アボカドの種から木が育つというのは本当なんだな、と思った。あれから十年以上経つけれど、スーパーフードの威力に感動した記憶は褪せていない。
アボカドが世界一栄養価の高い果物だというのは、世界中が認めるところ。エネルギー代謝を上げるビタミンB群を豊富にふくんでいるから、疲労回復に絶大な効力があるといわれる。アボカドに手を伸ばすとき、黒い楕円球が栄養補給の飛び道具に見える。
それ以上にアボカドがすごいと思うのは、いくらでも姿かたちを変える変幻自在なところ。おかしな言い方だけれど、私には確信がある―自分は、アボカドの可能性をまだまだわかっちゃいない。
アボカドの窪みに、初めて醬油を数滴垂らしたときはびっくりした。まったく醬油に負けちゃいないのはなぜ? 果物なのに。
薄くスライスしてトーストにはさんだら、ものすごくゴージャスなサンドウィッチになった。チーズと同格かなと思ったけれど、違う次元のような気がする。
ペーストにしてミントや青唐辛子やレモンを混ぜたら、パンチの効いたメキシコ料理になった。
ざくざく潰して海老と和えてみる。そうしたら、白ワインにぴったりのひと皿が出来上がった。貝柱も合う。まぐろの赤身と和えてレモン汁を垂らすと、無国籍料理っぽくて楽しい。あ、こういうのが寿司ロールの世界なのか。
ある和食の店で、アボカドとベーコンの炊き込みご飯に遭遇したときは、意表を突かれて、降参した。ねっとりとご飯に絡みつく熱いアボカド、ベーコンの燻味。エネルギッシュな食べごたえに萌えた。
疲れやすい季節だから、上手にアボカドの力を借りたい。
ベトナムで食べたおやつを紹介します。
夏によくつくる「冷たいアボカドクリーム」。
【材料】
アボカド(大)1個
レモン汁小さじ1/2
練乳大さじ2
【作り方】
①アボカドの種を取り、果肉をボウルに入れて潰す。
②レモン汁と練乳を混ぜ、なめらかなクリーム状にする。
③保存容器に入れ、よく冷やす。
スプーンふた口でも満足が深い。