まじめでおだやか。やさしい微笑みを浮かべつつ、思慮深い。有村架純という女優にそんなイメージを持っているとしたら、間違いではないけれど、決してそれがすべてではない。一つひとつの質問をしっかりと咀嚼してくれたインタビューが終わったあと、撮影で使ったお花を包んで差し上げたら「わぁ、うれしいです!」と、くだけた笑顔。そう、彼女はおちゃめで、誠実だけどおどけるのも好きで、本当はもうひとつ殻を破りたいと思っていて……とにかく、その絶妙なバランス感で、周りをキュンとさせてしまう人だった。
有村架純、殻を破るとき。これからはまじめ一辺倒じゃなく、「素の自分」も見せれたら

ある日急に撮影が休みになったら、女優はどんな時間を過ごすのか?――WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』は、有村がオフの日の本人役を演じるという、異色のオムニバスドラマだ。映画やテレビ、CMや舞台といった各界の名だたるクリエイターたちが妄想をふくらませ、彼女のパラレルな休日を描く。是枝裕和や今泉力哉ら5人の監督と、篠原誠やペヤンヌマキら8人の脚本家が、代わる代わるつくりだす8つの物語。それぞれの現場を、有村架純はこう振り返った。
「1話につき2、3日で撮っていくから、短いスパンで出会いと別れを繰り返したんですよね。監督さんによって現場の空気も全然違いますし、環境が変化していくスピード感を楽しみながら取り組めたと思います。なにより、これだけいろんな物語を一気に演じられるのが、本当に面白かったです。コメディタッチの『バッティングセンターで待ちわびるのは』『死ぬほど寝てやろう』、ドラマティックな『ただいまの後に』『母になる(仮)』……挑戦してみたいと思っていたテイストをたくさん体験できる、願ったり叶ったりな作品でした」
全8話で描かれる“有村架純”は、じつに多様な顔を見せる。笑って、泣いて怒って、戸惑って喜んで……さまざまな有村を詰め込んだ、いわばバラエティパックのような作品だ。でもその表情は、いずれも「自分の中から出てきた、8通りの自分なんだと思う」と、彼女は言う。
「すこし前、等身大の役や、感情を内に秘めた役を演じることが続いていました。似た役柄ばかりを続けているだけでは、だんだん苦しくなってしまうのではないか……そんな気がしていた時期に、今回のお話をいただいたんです。いろんな“有村架純”を外に出していくイメージで演じていけば、なにか発見があるかもしれないと思って、挑戦を決めました。いろんな“撮休”を私で描きたい、と言っていただけたことも、とてもうれしかったです」
だけど彼女は、どうして自分を選んでもらえたのかはわからない、と続けた。自身のキャリアや力に、どこか半信半疑な自分がいるという。
「『あの作品のお芝居がよかった』って褒めていただけたら、もちろんものすごくうれしいです。でも、私は天才肌じゃなくて、なにごともちゃんと取り組まないとできないタイプ。それに、いま自分のやっていることが正解なのかは、長いことやり続けていかないと答えが出ない、とも思っているんです。これまでいただいた評価にきちんと応えられているか、なんとなく曖昧なままで……ずっと、自信があるようでない、みたいな感じなんですよね」
しっくりくる表現を探しながらゆっくりと話していた有村架純は、そこで一度、言葉を切った。間を置いて、はっきりと続ける。
「でも、いろんな仕事にまじめに取り組んできた自負はあります。たとえ正解がわからなくても続けていく、その作業を諦めずにやってきたから“いま”があるとも思っているし。『どうしてこんなにバカまじめにやってるんだろう』って苦しむ時間も多かったけれど、考えれば考えるだけ答えに近づける気がするから、考えることをやめられないんですよね。この10年間は自分なりに、そういう正攻法でずっとお芝居をしてきて……このやり方しか知らない、っていうのもあるんですけど(笑)」
心の内側を静かにさらけ出して、愛嬌たっぷりに笑う。自信が持てないままでも、走り続けるしかない。目の前の作品と真摯に向き合っていれば、なにかしらの答えにはたどり着ける。最初にそう感じた作品は、2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』。小泉今日子が演じる天野春子の10代、みずみずしいアイドル時代を好演し、世間の注目を集めた。「熱量があれば、人に伝わるんだ」と実感した。
「自分のすべてをかけて作品に取り組んでいたら、いつの間にか、いい方向に転がっていったんです。思えば思うほど、向き合えば向き合うほど、画面越しに観ている方にも伝わっていくんだな……っていう根拠のない自信は、そのときはじめて生まれました。それからはずっと、自分に熱量がなければいいものは絶対につくれない、と思っています」
自分の熱量を下地に、多くの監督や共演者に恵まれながら、彼女は成長してきた。『あまちゃん』のあとの印象深い現場を尋ねると、2015年の映画『ストロボ・エッジ』を挙げる。
「廣木(隆一)監督には、めちゃくちゃ怒られました(笑)。漫画原作の作品だったから、原作を読み込んでキャラクターを作って撮影に臨んだら『余計なことしなくていいから、普通にして』と、全部はぎ取られて……『あ、間違えた!』って思いましたね(笑)。でも、現場が進むにつれて『気持ちがあれば、絶対に目から伝わる』とも教えていただいて、すごく腑に落ちたんです。お芝居とはなんなのか、わかっているようでわかっていなかったんだと思ったし、お芝居の根本に近づけた気がしました」
目からにじみ出るのは、つくられた嘘ではなくて、本当の気持ち。もっと言えば、女優自身の芯にある感情や、生き方なのかもしれない。だからこそ、自分そのものを豊かにしていかないと、いいお芝居は生まれないとも感じる。
「心を豊かにするために、いろんな映画や本にふれたり、多くの人とコミュニケーションをとったり、暮らしも大切にしていきたいと思います。だけど、なかでも私をいい方に変えてくれるのは、やっぱり仕事なんですよね。作品の内側に生きることで、たくさんの経験が得られるんです。日常生活で感情が激しく動くことって、なかなかないじゃないですか? この10年間に出会ってきた役や作品を通じて、人を受け入れることや愛することを学んできたように思います」
役がそれぞれ違うように、実世界で出会う人々もみんな違う。そのなかで『合う・合わない』もあるだろうし、もしかしたら短所が目立つ人もいるかもしれない。でも、ただ「この人、合わないな」「いやだな」で片づけず、相手がそうなった背景には、なにか絶対に理由があると考える。
「私が出会ってきた役は、みんなそうだったから。たとえば映画『3月のライオン』(17)で演じた香子は、神木(隆之介)くんが演じる零にとてもつらくあたるけれど、その背景には大きなコンプレックスを抱えているんです。父親から愛されなかった苦しみを、零にぶつけているから、ひどいことを言ってしまう。そういうふうに、現実で出会う方々にもそれぞれ事情があると思うんですよね。そう考えると、相手のありのままを受け入れられるし、付き合っていける」
人間の奥行きを感じられるようになったことで、人としなやかに付き合えるようになった、ということなのだろう。周りにはそれだけ思慮深い視線を向けられるのに、なぜか自己評価は厳しいまま。それはきっと、有村架純のよさでもあるけれど。
「自分のことが嫌になってしまうときって、きっと、仕事に対してきまじめすぎるんだと思います。まじめでおとなしいパブリックイメージを求められ続けることに、コンプレックスもあるのかもしれません。その殻を打ち破りたいと思うけど、なかなかうまくいかないし、そのイメージを期待していただけるなら応えたいとも感じるし……どちらにしても、もっと感覚に身をゆだねればいいんでしょうね。経験を積んでくるとつい臆病になってしまうけれど、楽しそうだと思ったら、とりあえずなにも考えずに飛び込んでみる。周りを信じて、いままでとは違うチャレンジもしてみたいです」
なにか違和感をおぼえるときは、マネージャーや事務所の社長にすべてを話す。「いまこんなことを考えている」「こんなことをしてみたい」などは、ため込まない。デビューしたてのころはうまく相談できなかった。けれどいまは、信頼する周りにすべてを打ち明けられるから、思いつめることもない。
「私の周りって、気持ちのいい方が本当にたくさんいるんですよね。いるだけで周りを明るくしてくれるような……たぶん、根暗な私とは真逆の(笑)」
ここまで話を聞いてきて、言葉の端々から彼女の誠実さは伝わってきたけれど、根暗だとは思わなかった。むしろ、ときどきおどけて笑う姿に、場の空気が幾度もやわらいだ。だからこそ、そのセルフイメージをすこしもったいなく感じる。
「現場では集中していることが多いから、全然しゃべらないんですよね。黙々と芝居をしているので、暗い人だと思われているんじゃないでしょうか(笑)。積極的にコミュニケーションをとれる人には憧れますね。いろんな人に自分から歩み寄って、楽しい空気をつくれる人間になれたらいいなって思う。いつもお世話になっているメイクさんやスタイリストさんには『楽屋のままの姿でいれば面白いのに』って、よく言われるんですけど……本当は面白いこと、大好きだから!」
そのやわらかくておちゃめなところを、もっと見たい。そのまま出していってほしいです。
「もうね、出せないです(笑)。まじめなままで時間が経ちすぎちゃったんです(笑)。でも、これからはちょっと頑張ってみたいな。必要なことは考え続けるけれど、考えすぎるのはやめて、明るくやっていきたいです」
世に出ている有村架純の魅力は、じつはまだ、すべてではなかったのだ。これからがもっと、楽しみになる。
『WOWOWオリジナルドラマ 有村架純の撮休』
3月20日(金・祝)WOWOWプライムにて放送スタート
毎週金曜深夜0時~(全8話)第1話無料放送(初回15分拡大)
WOWOWメンバーズオンデマンドでは、各話終了後 見逃し配信
TSUTAYAプレミアムでは、各話終了後 配信スタート
監督:是枝裕和、今泉力哉、山岸聖太、横浜聡子、津野愛
脚本:今泉力哉、砂田麻美、篠原誠、ペヤンヌマキ、ふじきみつ彦、三浦直之、津野愛、比嘉さくら
出演:有村架純 柳楽優弥 満島真之介 伊藤沙莉 渡辺大知 笠松将 前野健太 リリー・フランキー 風吹ジュン ほか
音楽:七尾旅人
主題歌:竹内アンナ『RIDE ON WEEKEND』(テイチクエンタテインメント・インペリアルレコード)
制作協力:ホリプロ
製作:「有村架純の撮休」製作委員会
ⓒ「有村架純の撮休」製作委員会
wowow.co.jp/drama/original/satsukyu
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有村架純
1993年生まれ、兵庫県出身。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)で人気を博し、『映画 ビリギャル』(15)で第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞および新人俳優賞を受賞。また、同作と『ストロボ・エッジ』(15)で第58回ブルーリボン賞を受賞。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(17)で主演を務め、第67、68回NHK紅白歌合戦の紅組司会者に起用され話題をさらう。主な映画出演作は、『思い出のマーニー』(14・声の出演)、『何者』(16)、『3月のライオン 前編/後編』(17)、『ナラタージュ』(17)、『関ヶ原』(17)、『かぞくいろ -RAILWAYS わたしたちの出発-』(18)など。2020年の待機作に、映画『花束みたいな恋をした』(冬公開予定)がある。
@ kasumi_arimura.official
Photo: Mariko Kobayashi Text: Sakura Sugawara Edit: Milli Kawaguchi