「池田エライザ」として役者、モデル、映画監督と幅広く活躍し、2021年からはさらに音楽活動もスタートさせたELAIZAさん。どのジャンルでも才能を発揮させてきた彼女は今回、世界的シンガーソングライター・Siaの初監督作『ライフ・ウィズ・ミュージック』(2月25日公開)の主題歌の日本語カバーに挑戦しました。人々の心に寄り添う音楽を生み出してきたSiaと同じように、ELAIZAさんにも自身の音楽を通じ、「ねぇ、聞いて」と伝えたいことがあるのだといいます。
『ライフ・ウィズ・ミュージック』ELAIZAインタビュー「謙遜なんて絶対、しなくていい。経験を積み上げた自信を大切にしたい」

──ELAIZAさんは以前からSiaのファンだったそうですね。そんな憧れの彼女が、初監督作のために書き下ろした主題歌『Together』の日本語版カバーソングを歌うことになり、当初はどんな気持ちでしたか?
いただいたお話が大きすぎて、「なんのことですか?」って聞き返したくらいでした(笑)。「Siaって、あのSiaですか?」という確認から始まって、「Siaが映画を撮ったんですか? その主題歌を私が?」って。すごく混乱しました。でも、これまでもSiaは、音楽という手段を使って、自身が経験してきたことをまっすぐに伝えてきたと思うので、映画を撮ることにより、さらに新しい層に愛情を広げていくんだなと。その手助けができるということが、嬉しかったです。
──Siaの曲には、薬物やアルコール依存症、難病を克服してきた彼女ならではの、切実な人生観や音楽観がいつも込められていますね。
私の中でSiaは、ずっと強い女性というイメージがあったんです。東京にいると、辛いことやモヤモヤしたことがあっても、(人目があるので)あんまり大きな声で叫べないじゃないですか。そういう、夢に向かって足掻くときの心の声とか、悲痛な叫びみたいなものを代弁してくれる、たくましさをSiaに感じていました。一方で、2017年にリリースされたクリスマスアルバムの『Snowman』という曲は、そのシンプルなメロディに、懐の深さや温かい愛情が感じられたんです。そこから、もっとファンになりました。
──今回の映画のためにSiaが書き下ろした12曲は、ポップで幻想的なミュージックシークエンスに使われています。中でも『Together』は歌詞に、「誰かの前にまず自分のことを愛す」など、Siaが今作に込めたメッセージが凝縮されていますね。翻訳された日本語の詞で歌うのはいかがでしたか?
日本語には日本語のよさがあるなと思いました。音は硬いけど、一つの言葉に含まれるニュアンスが多いじゃないですか。先入観として、「楽しい」は「楽しい!!」、「悲しい」は「悲しい……」といったイメージはあるけど、実はそれぞれに優しさを内包しているような気がしていて。だから、Siaが歌っている言葉の意図を汲み取りながらも、日本語バージョンは原曲よりも少し柔らかい『Together』になりました。
──今作の中で、音楽は、アルコール依存症のリハビリを受けているズー(ケイト・ハドソン)や、自閉症の妹・ミュージック(マディ・ジーグラー)にとって、唯一の「救い」として描かれています。ELAIZAさんも、お母さまがシンガーだったこともあり、子どもの頃から音楽が身近にあったそうですね。
私にも、学校がうまくいかないときとか、音楽に生かされていたなと思う時期がありました。子ども時代って、無秩序の中に秩序ができていくじゃないですか。自分たち独自の法律ができて、もしそれに賛同しなかったら、周囲と心の距離がどんどんできていっちゃう。そういうときに、「大丈夫だよ。そんなときもあるよ」って共感してくれた存在が、私にとっては音楽だったんですよね。「なんだ。自分がおかしいんじゃなくて、今の教室の不穏な感じがおかしいんだな」って気づかせてくれたというか。
──当時のELAIZAさんのことを、音楽が肯定してくれたんですね。
はい。音楽をはじめ、エンタテインメントって本来、誰かを貶めようとして作られてるものはほとんどなくて、受け手の人たちを救いたいという思いから作られていると思うんです。だから、どんなに疲れて鈍感になっていたとしても、リラックスして耳を澄ませて音楽を聴けば、世の中は愛であふれているんだと気づける。私自身、音楽とは切っても切れない関係です。
──2021年からアーティスト活動をスタートさせたわけですが、音楽が大切な存在だからこそ、仕事にする上でのプレッシャーはありませんでしたか?
ないです(笑)。気楽なんです。
──そうなんですね!
お芝居は、(脚本家が書き、監督が演出したセリフという)誰かの言葉を受けて、そこに自分の解釈を込めて届けることだから、責任を感じます。でも音楽は、自分の好きなことだし、誰かの物差しで価値が決まるわけじゃないから。私が楽しかったらまずはOKだし、もし賛同してくれる人が増えて、ムーブメントになっていくなら、それはそれでラッキーだなくらいに思っていて。なんの気負いもないんです。レコード会社の方たちには申し訳ないですけど……(笑)。
──音楽活動はお芝居以上に、ELAIZAさん自身をオープンにしていく必要があるような気がしていたので、気負いがないというのは意外でした。
「自分をオープンにする」と言うほど、普段から何かを隠しているわけじゃないし、一人の普通の人間だしなーって。そう思えるほどのたくましさが、最近自分に培われてきた気がします。そういえば昔、お仕事をご一緒した方に「このタレントさんは、こんなに私生活に犠牲を払っていてかっこいいよね」と言われたとき、カチンときて。「犠牲を払わないとかっこよくないの? 自分のために生きて、精神的に満ち足りた暮らしをして、親しい人たちを幸せにしていくのではだめなの?」って、モヤモヤしたんです。
──苦しみを伴ってこそドラマチックである、と。私たち日本人が、つい陥りがちな考え方かもしれませんね。
そう! あと、「根拠のない自信」を持つべき若い時期に自信が持てなくて、歳を重ねて「根拠のある自信」を持つべき時期に今度は根拠を見失う。そういう節がみんなあるんじゃないかと思うんです。私自身も経験を積み上げてきたはずなのに、なぜか謙遜しちゃう。そんなこと、絶対にしなくていいのに。日本人の民族性というか、村八分を恐れるのもわかるんです。でも、だからこそ、違和感を感じた人が、少しずつ声を上げてアクションを起こしたり、エンタメに還元したりできるといいなと。私もやれる限りはやりたいし、同時に、犠牲なんて払わないで、自分のプライベートも100%いい感じにしたい!
──今「やれる限りはやりたい」と言いましたが、まさにELAIZAさんは近年、役者やモデルはもちろん、映画監督(※2020年にデビュー作『夏、至るところ』が公開)や音楽など、幅広いジャンルで活躍していますね。
やればやるほど、結局ジャンルは他者に説明するための概念でしかなく、私自身が背負う必要はないなって思います。表現活動において、助けたい人や伝えたい人がいる、という根底は変わらなくて、そのための手段が変わるだけ。カレーをスプーンで食べるか、箸で食べるかの違いみたいな(笑)。ただ、もっともっと近くで声を届けたいと思うほど、音楽になっていくのかなと思います。「ねぇ聞いて?」ってメッセージを確実に届けられるのが、音楽なのかなって。
──クリエイティブチームの中心に立つ機会も増えたと思いますが、そうした経験を重ねて、自分の中で変わってきたなと感じることはありますか?
決断することを、あんまり恐れなくなりましたね。決断力が必要な場面が多すぎて、そのうちに経験がどんどん味方してくれるようになってきて。監督を経験して思ったのは、裏方って花形だな、ということ。作品を編集して納品するまでの間、「私、今すごい輝いてる!」って思ってました(笑)。現状の映画界に不満や肩身の狭さを感じている人が、私の現場では好きにやれたり、お互いに環境を整え合ったりして、一緒にいい作品を作っていけたら、儲けものだなと思います。
──以前、「社会の動きやニュースを見て感じたことも、表現に込めたい」と話していましたが、そうした知識はいつもどうやって得ていますか?
知識欲はすごくある方なんですけど、実は最近、ニュースアプリを全部消したんです。結局は自分で検索した情報しか頭の中には残らないし、トップに上がってくるようなニュースって、案外意味のないことばかりで。たとえば誰かの不倫なんて、私たちにはなんの関係もないし、そこに目を留める時間も惜しいほど。それよりもたとえば、世界では今1秒に何本の木が伐採されているのか、蜜蝋ラップはどこの蜂の巣から作られているのか、そういう興味のあることについて調べているときの方が楽しいです。
──気になるテーマについて調べるときは、本とインターネット、どちらを使うことが多いですか?
両方なんですが、本は昔ほど読まなくなりました。以前はすごく依存してて、「何か読まないと、時間がどんどん過ぎていく!」みたいな焦燥感があったくらい。今よりも感性がスポンジだったから、読み終わると自分の言葉遣いもその本に影響を受けたりして(笑)。今は、本とはよりよい関係性だと思います。ときどき本屋さんに行って、棚から気になった本を一冊だけお持ち帰りするみたいな。
──最近読んだ本の中で、心に残っているものはありますか?
久しぶりに、アゴタ・クリストフの小説『悪童日記』を読み返したんです。以前ダークな物語が好きだった時期に読んだ本なんですが、今読んだらどういう気持ちになるんだろうと思って。昔は斬新な文体にただただ驚いた覚えがあるけど、読み返してみると、登場人物の子どもたちが閉鎖的な環境の中で独自の価値観を作り上げようとする姿が印象に残りました。
──自身の変化がわかった一冊なんですね。
そうですね。この子たちを助けたいという、はっきりとしたビジョンで読めるようになっていて。「あ、私ちょっと大人になったんだな」と感じました。感性が変わったというより、立場が大人になったんだなって。また10年後に読んでみたいと思います!
『ライフ・ウィズ・ミュージック』
アルコール依存症のリハビリテーションプログラムを受け、孤独に生きるズー(ケイト・ハドソン)は、祖母の急死により長らく会っていなかった自閉症の妹・ミュージック(マディ・ジーグラー)と暮らすことに。頭の中ではいつも音楽が鳴り響く色とりどりの世界が広がっているが、周囲の変化に敏感なミュージックとの生活に戸惑い、途方に暮れるズー。そこへアパートの隣人・エボ(レスリー・オドム・Jr.)が現れ、優しく手を差し伸べる。次第に3人での穏やかな日々に居心地の良さを覚え始めたズーは、孤独や弱さと向き合い、自身も少しずつ変わろうとしていくが……。
監督・製作・原案・脚本: Sia
出演: ケイト・ハドソン、マディ・ジーグラー、レスリー・オドム・Jr.
配給: フラッグ
2021年/アメリカ/107分/5.1ch/カラー/シネスコ/DCP/原題:MUSIC
2月25日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
© 2020 Pineapple Lasagne Productions, Inc. All Rights Reserved.
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ELAIZA
1996年、福岡県出身。役者としては「池田エライザ」、アーティストとしては「ELAIZA」の名前で活動している。2011年に『高校デビュー』で映画デビュー。2015年、園子温監督の映画『みんな!エスパーだよ!』でヒロインを演じ、注目を集める。2018年4月~2021年3月までNHK BSプレミアムの音楽番組『The Covers』でリリー・フランキーとともにMCを務め、同番組で歌のパフォーマンスを初披露したことをきっかけに、各局の音楽番組から出演オファーが殺到。2021年、音楽活動を本格始動。11月に1stオリジナルアルバム『失楽園』をリリースし、12月に初ライブ『ELAIZA 1st ShowCase LIVE “Paradise Lost”』を行った。
Photo: Kaori Ouchi Stylist: Risa Kato Hair&Makeup: Toyota Kenji (shiseido) Text: Tomoe Adachi Edit: Milli Kawaguchi