〈グッチ〉や〈ディオール〉など多くのブランドから熱いラブコールを受け、ファッション・アイコンとしても注目を浴びるアーティスト、アーロ・パークス(Arlo Parks)。 彼女が音楽に込める、祈りのような思い。
陽だまりのようなハグをしよう。ミュージシャン Arlo Parksにインタビュー
西ロンドン・ハマースミス出身のシンガーソングライター、詩人のアーロ・パークス。2021年1月に発表された1stアルバム『Collapsed in Sunbeams』は、オーガニックでチルなサウンドと、セルフケアやメンタルヘルスなどのイシューを叙情的に物語る歌詞が、コロナ禍に疲弊する人々の心を代弁し「癒やし」を与える作品であると世界中で賞賛を受けた。数々のアワードを総なめにし、グラミー賞にもノミネートされたパークスを「時代の声」と評する批評家やリスナーも多い。今、もっとも期待を集めるアーティストである彼女に話を訊いた。
友達に作ってもらったリングがお守り
「散歩をして、迷子になるのが好きなんです。新しく訪れた場所では必ず一人で街歩きをします。昨日は渋谷に泊まったんですけど、朝起きてふと思い立って、あの巨大な交差点の前を行き交う人たちを観察していました。愛し合う恋人たちや仲睦まじい家族、友人と楽しげに語らう若者の姿。東京の人たちがどんな服を着て、どんな会話をして、どんなふうに生きているのかに考えを巡らせながら、ノートに夢中でメモをとりました。そういう風景を目の当たりにして、『何か書きたいな』と思える時は、その場所との特別なつながりを感じます」
フジロックフェスティバル 2022への出演に先駆けて、2日間のオフを東京で過ごしたパークス。今回が彼女にとって初の来日となる。THRASHERのTシャツ、洗いざらしたオレンジのハーフ・パンツ、アンドロジナスなリング、無骨だがエレガントなブーツ──その自分らしさあふれる飾らないスタイルと、柔和で気品のある歌うような語り口は、彼女の音楽から受けるイメージそのもののオーセンティックな魅力に満ちていた。
「このトップは先日、渋谷の古着屋で買ったんです。90年代のスケート・ボード・ファッションが大好きで、毎日そんな格好をしていますね。クールで力強い感じが、最近の好み。でも正直、好きなスタイルはその時々で変わります。〈シモーン ロシャ〉や〈イッセイ ミヤケ〉〈ボーディ〉も好き。……このリング、カッコいいでしょ? 〈ブルー・バーナム〉という友人のジュエリー・デザイナーが特別に作ってくれたんです。〝AP〟って私のイニシャルが内側に彫ってあって、いつもお守りみたいに持ち歩いています」
何気ないアイテムにも身につける確たる「理由」がある。そんなパークスがファッションに目覚め始めたティーンエイジャーの頃、喉から手が出るほど欲しかったアイテムは、オーバーサイズのトラウザーだったとか。
「スケートボーダーに憧れていて(笑)。ママにおねだりしたんだけど、『ぴったりのサイズにしなさい』と言われちゃって。何年もお願いし続けて、やっと買ってもらえた時は、『これだよ、これ』って、本当にうれしかったです。やっと自分らしい格好ができると思いました」
あなたを救いたい
温かい抱擁のような音楽
ナイジェリアやチャド、フランスにルーツのあるマルチレイシャルなバックグラウンドを持ち、17歳の頃にバイ・セクシュアルであることを自認したパークスは、常に周囲との違和感を意識しながら、自分はどのように生きていくべきなのかを模索してきたという。彼女にとって、その助けとなったのは、創作活動に他ならなかった。
「子どもの頃から、孤独と向き合うために短編小説や詩を書いていました。文章を綴り、パフォーマンスをすることで、自分だけの世界を作り上げていたんだと思います。その中で冒険したり、あるいは一息つくことで、私は癒やされていました。本当につらい思いをしないで済んだのは、創作活動と何人かのいい友達のおかげです」
《Let’s go to the corner store and buy some fruit / I would do anything to get you out your room(角のお店に行って、果物でも買ってこようよ。あなたが部屋から出て来られるように、できることはなんでもするよ)》─英語で〝鬱〟を意味する慣用句「Black Dog」というタイトルのパークスの楽曲には、こんな一節がある。実際にうつ病で苦しむ友人への手紙のようなものとして書かれたこの曲は、彼女自身のごくごく個人的な体験を歌いながら、人生で誰しもが経験する切実なテーマである「苦しむ人の側にただいることの難しさ」を扱っている。普遍的でありながら、どこまでもパーソナルなもの。それこそがアーロ・パークスが理想とする音楽だ。
「自分のためだけに音楽を作っているのだとしたら、リリースなどする必要はなくて……子どもの頃にしていたように、ノートに書きつけて、一人で歌って、それで終わりでいい(笑)。でも、今の私は、表現を多くの人と共有したいんです。それは、おそらく自分自身、音楽に救われたという経験があるからで。人生の暗くてつらい瞬間に、『私のことを歌っている』と思える音楽と出合うことは、何にも代え難いですよね。誰もが、温かいハグを必要とする時がある。私は基本的に、強いエモーションを宿した音楽に惹かれます。作り手がどうしても世の中に出さずにはいられなかったもの。そういう表現こそが、誰かを救えると思います」
癒やされたい時はポニョを観る
パークスはユニセフやCALM(自殺防止を目的としたイギリスのチャリティ団体)を通じて社会貢献活動にも従事し、アーティストとして啓蒙にも努めている。彼女は人生の使命について、究極的には「人を助けること」と語る。 「音楽活動も、社会貢献活動もどちらも根底にあるのは、誰かを助けたいという思いです。その目的意識が自分を突き動かしています。他者と対話し、他者を理解し、人の支えになることに、私はいつも惹かれてきました。つまり、それこそが自分自身が背負う宿命であり、私という人間を表していると思います」
最後に、「癒やし」こそが自らのミッションと言い切るパークスが疲れた時に手にとる、文学・音楽・映画を、それぞれ選んでもらった。
「まず、本は詩人であるオーシャン・ヴオンの小説『On Earth We’re Briefly Gorgeous』(19)。ベトナム系アメリカ人としてのアイデンティティを模索しながら、大切な夏の思い出を綴った彼の文章は本当に美しいです。音楽は、フランク・オーシャンのアルバム『Blonde』(16)ですね。何度も繰り返し聴いているけど、ユニークで飽きない。自分にとって特別なアルバムです。映画はどれにしようかな……。『崖の上のポニョ』(08)にします(笑)! なんて言ったって、ポニョがめちゃくちゃ可愛いし、癒やされる。観ると必ず元気になれる映画です。大好きですね」
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Arlo Parks
アーロ・パークス>> 2000年生まれ。18年に1stシングル「Cola」でデビュー。翌19年にEP『Super Sad Generation』『Sophie』、21年に1stアルバム『Collapsed in Sunbeams』を発表。村上春樹やNujabesら日本のアーティストからの影響も公言している。Instagram→ @arlo.parks