忘れられないシーンや胸を打つ映像の裏側には、必ずスタイリストがいる。もしくは、物語に没入してキャラクターの服装を覚えていない一本にも。気になる5名に聞く、コーディネートの枠を超えたどこまでも深い仕事術。連載 #映画スタイリングという仕事 より。
服部昌孝が語る、映画スタイリングという仕事。
映像作品でのテーマは“人をつくる”こと
映像作品でのテーマは
“人をつくる”こと
あいみょん、Awich、RADWIMPSなどアーティストのスタイリストといった印象が強い服部さん。自身が設立したプロダクションではMV撮影や映像制作などを行い、多忙な毎日だが、意外にも映画にも携わっている。
「本格的に参加しているのは、清水康彦監督『その日、カレーライスができるまで』(21)と『スクロール』(23)、浜崎慎治監督の短編『半透明なふたり』(22)になります。同じく清水さんの『ペンション・恋は桃色 season2』(23/FODで配信中)などドラマも結構やっていますが、衣装の考え方はどちらも変わらない。まずキャラクター像を明確にします。
例えば、『スクロール』は現代の群像劇なので、メインとなる4人が着る服は全然違います。彼らが買いものするであろうショップを想定し、公務員役の松岡茉優ちゃんはルミネや駅ビル、アーティスト役の(古川)琴音ちゃんは古着と〈ジャーナルスタンダード〉のようなゆるめのセレクトショップ。会社でパワハラに遭う(北村)匠海は、ファストファッション寄りだけど、セレクトショップのオリジナルぐらいで、中川(大志)くんは〈ユナイテッドアローズ〉や〈トゥモローランド〉のドレスコーナー。テレビ局勤務の設定だから、かっちりしたスーツというより、普段はタイトめのカーディガンやGジャンといったちょっと鼻につく感じ。そういう棲み分けが俺の中でできていました。基本的にはスタイリストとして入りますが、監督とも信頼関係があるから、衣装のディレクションは握りますよ、というスタンスです。キャスト全員の責任を持ちます。依頼されて主演の方だけをやることもありますが、作品全体で見ると、自分のスタイリングが少し浮く感じがして」
北村と古川が演じるのは同じ会社で働く同僚だったが、一方はパワハラに苦しめられ、もう一方は独立という形でそれぞれ勤め先を去る。そこから物語が動き出すのだが、「退社する前と後で、着ているものを若干ズラしているんです。キャラクターの趣味が少し出る程度ですが、会社勤めのときは、まわりを気にして生きていて、辞めた瞬間に気にしなくなる。そこの温度差を表現しています。そういった微妙なことをずっとやっていましたね」。
Text&Edit_Mika Koyanagi