ネオンが街を彩り始める頃、胸にふつふつと湧き上がる「今夜は何を飲もうかな」。お洒落なバーでアルコールを楽しむひと時は、お酒の歴史やうんちくを知れば、きっとより一層味わい深いものになるでしょう。ちょっとタメになってクスッと笑える、そんなバーテンダーの囁きをあなたへ……今回は定番中の定番、ジントニックのお話しをBar Culterのオーナー川渕陽介さんに聞きました。
「ジントニックください」その注文にバーテンダーが緊張する理由
一杯目に迷ったらジントニックで決まり
すっきりとした口当たりに、ふわりと広がるライムの香り。しつこさのない甘さで、男女ともに人気のあるカクテルであるジントニック。アルコールが好きな人も得意でない人も、バーで何気なく無難にジントニックを選ばれているかもしれませんが、実はジントニックを最初に注文されると、バーテンダーの方は緊張されるとも聞きますが?
「はい、背筋が伸びる思いです。実際に伸びています(笑)。バーテンダーの技術が最も試されるカクテルなので、頼まれると『あ、このお客様は自分を試している!』と一気に緊張します」
カクテルの基本のキとも言える、その材料とレシピはいたってシンプルです。
準備するもの
・グラス
・バースプーン
・氷
・ジン
・トニックウォーター
・ライム
①グラスに氷を入れステア(かき混ぜる)する
②ライムを搾る
③ジンを注ぐ
④ステアする
⑤トニックウォーターを注ぎステアする
簡単なテキストにするとこれだけで、形としてはジントニックの出来上がり。ですが、ジントニックは一筋縄ではいかないカクテル。バーテンダーにとってジントニックは最初に学ぶカクテルの一つ。材料はもちろんのこと、手順のかけ方次第で味は変わってくるので、作り手の力量による部分が大きい。自宅で作る際にも、ちょっとこだわるだけで味がグレードアップするそうです。
「自宅で作りたいなら出来たら、うすはりグラスを用意してください。氷(丸でも角でもOK。出来れば買ってきた氷が良し)、ジン、トニックウォーターを準備して、大まかには上の手順通りに作る。そして、その後、ライムを絞る順番を最後にしてみたり、ステア具合の緩急を調整して、自分好みの味を追求するというのもいいかもしれません。」
トニックウォーターは氷を避けるように、グラス内側をつたらせて静かに加える
作り手ごとに違う味の振れ幅を楽しむ
興味がわいたら、色んなバーに足を運んで、自分好みのジントニックを提供するバーテンダーに色々と聞いてみるのも楽しい。バーは敷居が高いものだと思って緊張する人もいるかと思いますが、そこはバーテンダーに尋ねよ! お酒談義に花が咲き、より一層お酒の魅力を感じるきっかけにもなるはず。
「手間の他に、やっぱり味を大きく左右する要素は材料です。ジントニックは名前の通り、ジンとトニックウォーター、それとライム。僕が気に入って使っているジンはタンカレーNo.TEN。言わずと知れた人気のジンで、強いコシと華やかさが際立つ、まさにジン・オブ・ジン!ちょっと値が張りますが、ジンらしさが一番際立つジンと言えます」
「最近は日本産のジャパニーズ・クラフトジン(季の美、ROKU(六)、カフェジン、和美人、AKAYANEなど)も多く出ているので、お手頃なジンを購入して飲み比べるも良し。ボトルのデザインも凝っているので、ジャケ買いして飲んでみたら好きな味だった!なんて運命的な出会いもあるかもしれませんよ」
病気の特効薬として信じられていたジントニック
お酒で面白いのは、その成り立ちと密接に関る歴史です。ジントニック(gin and tonic)は、18世紀に世界を股に掛けた貿易会社であるイギリスの東インド会社が大きく関係しています。当時、コショウなど香辛料の重要な産地で海運の要衝であったインドに送られた東インド会社の社員たちは、慣れない気候でマラリヤの脅威に怯えながら、生きるか死ぬかの日々を送っていました。インドの都市コルカタにある墓地は、亡くなったイギリス人で一杯になったなど、様々なエピソードが残されています。
そんななか、マラリヤの特効薬?として目をつけられたのがキニーネ(トニックの原料)。キナの木から抽出した苦味の強いキニーネを、飲みやすいように砂糖、炭酸水、ジンなどで割って飲んだのがジントニックの始まりとされています。当時は、これが本当に効く薬だと思われていました。
「トニックウォーターの定義はキニーネを使ったものとされているんですが、日本では最近まで国内での販売が許可されていませんでした。なので、日本で流通している多くのトニックウォーターは実はキニーネが配合されていません。今のところFever Treeの成分表示では確認できますが、親しみのあるシュウェップスでも日本で販売されているものには本物のキニーネは使われていません。成分表示に苦味料とだけ書いてあります……」
左がFeverTree(フィーバーツリー)、右もキニーネ成分が入ったトニックですが既に国内販売終了
「本物のキニーネを感じたい方はFever Treeを使っているバーを探すか、もしくは海外旅行に行った時に頼んでみてください。ただ、キニーネ自体は相当苦いです。慣れない苦味なので、本物を経験するのも良しですが、他のトニックと苦味を比べて調度良いものを選んでくださいね。何より大切なのは『美味しい!』と感じることなのですから」
住所: 東京都新宿区3-1-32 新宿ビル1号館B1F
電話番号: 03-6380-5105
営業時間: 18:00〜5:00(日曜のみ18:00〜24:00)
定休日: 月曜日
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川渕 陽介
奈良県出身、元カメラマンで新宿の名店DUGやどん底で修行を積み2018年秋に独立。ジャズ、オーディオに明るく、真空管アンプとレコードに囲まれて日々カウンターに立つ。