体の調子がわるいと、表情どんより&仕事や勉強の効率が落ちて、心も落ち込んでいってしまう……そうならないために、日々何ができるの?そんなあなたの駆け込み寺が、京都・左京区で鍼灸院を営む安東由仁さん、通称ゆにさん。京都のよもやま話とともに、東洋医学的見地から、かんたんにできる養生術を教えてもらいます。
長い休み明けの養生術。食事の「甘み」は控えめに。体づくりはじっくりと。鍼灸師ゆにの京風養生vol.4
年末年始のお休みはゆっくり休めましたか?
仕事はお休みで、気分はリフレッシュしたけれど、なんだかぼんやりするなあ、とも感じている人もいるんじゃないでしょうか。「仕事の休み」と、「体の休み」、実は必ずしも一致しませんよね。
特に、おなかが疲れた、という人は多そうです。お正月をはさんで、ふだん食べないようなおいしいものを、しかもたくさん食べたり、生活リズムが変わっていつもと違う時間に食べたり。
食べたものから栄養分と水分を摂り分け、吸収するのがおなかのはたらき。東洋医学ではこれをまとめて「脾(ひ)」のはたらき、としています。たくさん食べたり、間食が増えて休むひまもなかったりすると、脾は大忙しで疲れてしまいます。
脾が疲れてうまくはたらけないと、水をうまく外へ出せなくて体がむくんだり、食べ物をこなせなくておなかがもたれるような感じが出たりします。全体に「重い」「だるい」という感じ。何をするにも動き出しが鈍くなって、あーよいしょ…という感じ。
また、東洋医学では思考や感情を生み出すのも臓腑(内臓のような概念)だと考えていて、その中でも脾は「思」、つまり、考えること、思いをめぐらすことをつかさどるとされています。脾が疲れると、考えがうまくまとまらなかったり、くよくよと考えすぎてしまったりして、気持ちの動きも重く、だるくなってしまいます。
お正月明けの養生①
甘みやお酒は避けて
頭をすっきり快調に
摂りすぎると脾に影響が大きいのは「甘み」。この「甘み」、いわゆる「甘いもの」だけではなく、たとえばごはんやパンなどの炭水化物も、最終的には糖質になるので「甘いもの」と考えます。炭水化物・糖質は、適量であれば体を動かすエネルギーになるのですが、それ以上に摂ると体の中で「湿」として、体の中の流れを重くして、これもむくみになってたまってしまいます。ちなみにお酒や脂っこいものも、体に「湿」を増やします。
そもそも、東洋医学が生まれた古代には、今の私たちが食べているような、お砂糖を使ったスイーツほど甘いものは、そうそうなかったんじゃないでしょうか。当時の食養生が想定している甘さは、たとえばお芋の甘さや、ごはんをしっかりかんでいると感じる甘みくらいのもの。今のスイーツは、量はどうあれ「甘すぎる」という点で、すでにおなかにはインパクトが強いんですね。
そんなわけで、食べ過ぎたり、とりわけ、甘いものやお酒を摂りすぎてしまうと、おなかがうまくさばききれなくて、体も気持ちもどよんと重くなってしまうんです。
ちなみに、食べた後に眠たくなってしまうのにも、脾と甘みが関係しています。ものを食べたとき、消化のために脾に気(エネルギー)が集まりますが、このとき、そもそも寝不足をしていたり疲れていたりすると、「しっかり考える」というもう一つの脾の役割まで気が回らなくなります。そのとき、食事の内容がパンだけ、麺類だけ、というような糖質に偏ったものだと、ますます脾には負担が強くなって、ぼーっとしたり、眠くなったりしてしまうのです。
お休み明け、というだけでなくぼんやりするなあ、というときは、食べる量を控えめにしたり、糖質が多くなりすぎないように、野菜やお肉も摂れるような食事を考えましょう。
お正月明けの養生②
激しい運動はNG
ヨガやストレッチが◎
さて新しい年のはじめは、食べすぎてぽよんとしてしまった人も、そうでない人も、「今年こそ運動しなくては!」と思い立つタイミングかもしれません。
しかし実は冬のこの時期は「閉蔵(へいぞう)」といって「内に秘めて力をたくわえる養生」をするべきである、と中国の古典『素問』(鍼灸、東洋医学のベースになっている医学書のひとつ)には書かれています。冬は生命力を充電する季節。あまり走り回ったり、汗をかいたりするのには合わないのです。寒いこの時期に体を温めすぎると、体の表面を開いて汗をかき、かえって熱を逃がしてしまったり、開いたところから風邪が入ってきたりしてしまいます。
東洋医学の基礎になる考え方に「陰陽論」というものがあります。「陽」は活発で、外へ向かって表現する軽やかな動のエネルギー。「陰」は内に秘めて、どっしりとした形のある静のエネルギー。12月の終わり、冬至の頃が一番陰の力が強く、そこから春に向けて、じわじわと陽の力も入ってきますが、まだ発散しないで、じっくりと体を作っていくのが向いている頃です。
運動をするなら、ランニングなど体を激しく動かして汗をたっぷりかくものは避けて、寒さで力が入ってかたまってしまいがちな体をほぐすストレッチやヨガ、そして、ゆっくりした動作の筋トレなどがよさそうです。動きは単純なものでかまいません、スクワットやプランクなど、ゆっくり動いたり姿勢をキープしたりするものを、ちょっときついな…というところまでがんばってみましょう。
引き締まった筋肉をコツコツとつけておいて、暖かくなってきてから張り切って何をしようか?そんなことをこっそり考えておくのが、この季節にはぴったりな気持ちのあり方です。
でもひとつ、今年の冬に気をつけておきたいのが、暖冬であるということ。12月は結局さほど気温が下がらず、『素問』で想定しているような冬にはなり切らなかった印象です。気温差も大きくて、体がついていかずに疲れたり、力が抜けなくてかたまったりしている方も多かったです。
冬の割には暖かい、ということがあると、気がのぼせて眠れなかったり、イライラしたり、肩が凝ったりという春によく出る症状があらわれることがあります。そんな症状の出る暖かい日には、古典の冬の養生とは少しずれますが、少し早足で歩いたりラジオ体操をしたりといった、ちょっと勢いのある運動をして流れをつくってあげるようにしてみましょう。
お正月明けの養生③
牛すじの煮込みで
体を温め筋肉をつける
食べすぎないで、じっくり力をためて、という話が続いて、なんだか全体に静かで控えめな感じになりましたが、1月というのはそういう季節なんですよね。忙しかった師走、華やかなお正月を過ぎて、いろいろのことを控えめに、でもじっくりと過ごしているのがいい期間です。
そんな時期に作って食べるといいのが、これもじっくり、煮込んで作るスープです。野菜も肉も摂れて便利なのでスープばかり勧めている気もするのですが、ゆっくりできる時期には牛すじの煮込みが気分にも体にも合います。牛肉はお肉の中でも体を温める作用が強いですし、筋肉をつけるにもたんぱく質が必要。脾胃の消化を助ける大根といっしょに食べれば、脾にもやさしいですね。
京都の人が「肉食べに行こか」といえば、それは牛肉をさしていることが多いんです。牛肉は「肉」、鶏肉は「かしわ」と呼んで、豚肉だけはそのまま「豚肉」と呼ぶ人が多いように思います。なんかおいしいもん食べよか、といえば「肉」と返ってくるの、京都っぽい感じで、三嶋亭をはじめとした老舗の肉屋さんや、すき焼きや焼き肉などの肉料理も有名なところがいくつもあります。
そんないいお肉はなかなか買えませんが、牛すじだったら手が届きます。また寺町三条のひいきのお店までちょっと行ってこようかな、と思っています。
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安東由仁
鍼灸師。京都生まれ。20年間アスレティックトレーナーとして勤めたのち、京都に戻り、左京区・鹿ヶ谷にある町家で「ゆに鍼灸院」(完全予約制)をオープン。治療だけでなく、暮らしの中でできる養生術も伝えるなど、“自分をバージョンアップ”するためのお手伝いをしている。
@humanitekyoto
humanitekyoto.com
Text: Yuni Andoh Illustration: Ippan Nakamura Edit: Milli Kawaguchi