パリコレ序盤のある夜、私(編集SK)の元に1通のLINEが届いた。
「忙しいとこ悪い。ネイマールのレプリカユニフォーム買ってきてもらえないかな」
送信元は兄。どうやらサッカー好きの甥からのリクエストらしい。昨年〈バルセロナ〉から〈パリサンジェルマン〉(PSG)に移籍したスター選手、ネイマールのユニフォームが欲しいと。(おいおいこの前レアルマドリードのユニフォーム着てたよな。)ミーハーな11歳だ。
「新宿のKAMOに行ったらあるでしょ」
取材モードの私はつれない返事をした。
「まったく入荷しないんだ」
画面からイラつきだ伝わってくる。正直面倒だが、相手もそれなりに切迫しているようだ。
「ネイマールのレプリカユニフォーム?パリでも移籍直後は品薄だったよ」
翌朝の車内でドライバーが教えてくれた。なるほど、お膝元で入手困難なものが新宿のKAMOに届くはずないわな。隙を見て、私はサンジェルマン大通りのPSGのショップに出向いてみた。店に入ってすぐ、いちばん目立つところにどっさり並ぶ、“NEYMAR”の文字。がしかしここでちょっとした問題が。165ユーロ。即決できる額ではない。
すかさずLINE報告。
「ありがとう。ちょっと妻と会議します」
東京からの堅実な返事を確認し、いったんその店を後にした。
前置きが非常に長くなったが、さらにその翌日、〈KOCHE〉のショーである。驚いた。PSGのユニフォームが次々出てくるではないか。
サッカーファンにはおなじみ、スポンサーであるエミレーツ航空のロゴがなんともキャッチーに見えるから不思議
なんと〈KOCHE〉、PSGとのコラボレーションを発表したのである。プレスリリースにはこのように。『サッカーはヨーロッパで最もポピュラーなスポーツであり、あらゆる世代や階級を超えて愛されている。一方〈KOCHE〉のスタートから変わらない理念は、ファッションが世界に向けて開いていくこと。シンボリックなクラブでありパリに夢を与えているPSGとパリジャンの贅沢な既製服をいまの時代に復活させているコシェがコラボレーションすることは必然だ』と。とにかくPSGというチームが、ここパリにおいて単なるサッカークラブ以上の存在になっていることはよーく分かった。
翌朝の新聞。“レニークラヴィッツとネイマールがディナー”。
結局あれ以来ショップに行くタイミングがなく、空港でゲットしたネイマールペン。
ところで、〈KOCHE×PSG〉のほかにも、おなじみロゴとコラボレーションしている新進ブランド2つが印象的だった。1つは〈JOUR/NE〉。COCA-COLAとコラボなのである。パリの新進ブランドが、古き良きアメリカの象徴と合体するというのはやや奇妙な気もしたが、それ以上にポップでかわいいという感想が勝った。
70年代からインスパイアされた、セクシーで自信あふれる女性像。
そしてもう1つは〈AALTO〉。あ、あのおなじみのロゴ!…と思いきや、よく見ると違う(笑)。After Natureと描かれたロゴはフィンランドのアーティストによるフェイクロゴシリーズ。
フェイクロゴは、マイノリティーや多様性、違いを受け入れるというリベラルな価値を伝えるためのもの。
ちなみに〈AALTO〉は、RePackというフィンランドのデリバリーバッグともコラボレーションしていた。こちらはフェイクじゃありません。オンラインショッピングなどの配達に使われていて、荷物を受け取ったらまた企業に戻すことで再利用できるバッグだそう。フィンランドブランド出身デザイナーならではのコラボレーションにほっこり。
AALTOのオンラインショッピングでも実際にこのRepackが利用されているんだそう。
〈KOCHE〉〈JOUR/NE〉〈AALTO〉。それぞれにビッグネームを扱う軽やかさは、見ていて気持ちいい。街中の既製品や日常の風景を洋服に落とし込む手法はトレンドとも言えるけれど、ロゴそのものを主役にするこれらのコラボレーションは、より鮮やかに映った。