新刊『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ文庫)が発売になったばかりの犬山紙子さん。単行本『言ってはいけないクソバイス』を加筆・修正ののち文庫化。よりパワーアアップしたその観察眼のベースにあるのは、呪いから自分を守ろうという明確なメッセージだ。
犬山紙子「いまこそ呪いにバリアを張ろう」
── デビュー作『負け美女』(マガジンハウス刊)から7年。 最近はどうお過ごしですか?
年齢を重ねたら重ねただけ面白いっていうのが正直なところです。ニートで「どうしよう、どうしよう」と言ってたような時代から、仕事が見つかって、こうして続けられて。仕事って、やればやるほど楽しいんです。で、やればやるほど、反省もする(笑)このクソバイス本も、反省から生まれたっていう背景があります。なんせ自分自身が散々クソバイスしてきた人生でしたから。じつは『負け美女』っていうタイトルにも反省があって(※あ、そうだ、『負け美女』についてひとつ読者の方にお伝えしておきたいのは、これは私が負け美女ですという本ではなく、周りの美しい女性たちが実は人生イージーモードじゃないという本です/犬山さん談) 女性を勝ち負けで括るもの、今は嫌だなって思いますね。安易に人をカテゴライズしてぶった斬る、みたいなことをやってきましたから、私。想像力の欠如ですよね。私がやってきたことこそまさにクソバイス!ってここ2、3年ずっと感じてたんです。ブログでも「ほっんとーに申し訳ありませんでした」と表明したりしています。そうこうしている間に、視野が本当に広がって、今はものすごく楽しんでます。
──7年の間に、結婚して、お子さんも産まれました。
子供を産む前は、不安しかありませんでした。「仕事との両立大変だよ」とか「自分の時間なんて一切ないよ」とか。「追いつめられるよ」とか「夫のこと嫌いになるよ」とか。ネガティブな情報しか入ってこないんです。「なんだかんだいって子供はかわいい」ってみんな言ってくれるけど、そのかわいさすら想像できなかった。産んでみたら一転、これが、スーパー楽しいんですよ。私の場合子供を産んでよかったし、仕事を続けてきてよかったと思いますね。
──この本の反響はどうですか?
新刊の告知って、もともとあまりリツイートされなかったんですが、この本に関していえば今までないくらいリツイートされてます。よくある代表的なクソバイスのいくつかをイラストにして載せたら、みんな心当たりがあるみたいで。リツイートが2000を超えたあたりから、これはすごいぞと思いました。
──加筆されて、読み応えもたっぷりです。
『言ってはいけないクソバイス』でも、クソバイスを言われたときの切り返しを書いたんですが、前作とかなり変えてあります。自分自身も考え方が変わったというのもありますし、前作のなかにも「これはちょっと偏見かな?」と思い直すものがあったりして。前作を出したあと、じつは主婦の人がめちゃくちゃクソバイスされているという話を聞いて、そのエピソードを増やしたいなと思っていました。主婦の人に呼びかけたら、一瞬で100個くらいクソバイスが集まって。
──そんなに!
その中からピックアップして、10個入れました。
──クソバイスではなく、「呪い」と新たに付けた意味は?
編集さんと「クソバイスって一体なんなんだろうね」と改めて話して、それってつまり「呪い」だよねって。全部呪いだーって。何より、クソバイスをしてしまうと、自分自身にも呪いがかかってしまう。そのことにも触れてみたいと思って。
── 読んだ人からはどんな感想がありましたか?
「こういうクソバイス、あるある」以上に、「自分も言わないようにしなきゃ」というコメントが多かったのが嬉しかったですね。私自身、この本と向き合っているうちに、クソバイスしなくなってきたんです。懸念点として「これをクソバイスと言われたら、なんにもアドバイスできなくなるじゃん!」という反論があるかなと予想していたんですけど、今回はそういう意見がなかった。本当に相手のことを考えてのアドバイスと、そうでないものは明らかに違うんです。その人のためだと思えるアドバイスだったら、怖がらないで、相手の事情をヒヤリングするところから向き合って欲しい。
──クソバイスか否かの定義が浸透しましたね。
はい。伝わったんだ!と嬉しくなりました。
──クソバイスに関してアウトプットし尽くした感じ、ありますか?
ないです、全然ないです。それだけ世の中にはクソバイスが溢れ過ぎていて、この本では追いつかない。女の人生って、彼氏いないの?にはじまり、まだ結婚しないのか、子供はまだか、産んだら産んだで「ひとりっこは可哀想」とか、ずーっと呪い地獄が続くんです。もちろん男性もクソバイスは受けてるけど、女性のほうがまだまだ立場が弱いし、ハラスメントとも近い問題だから深刻ですよね。呪いって、着々と時間をかけて私たちに刷り込まれていて、だからこそ妙に焦るし、焦らなくていい人まで焦っちゃったり、「結婚したくない」っていう人が生きづらかったりするんです。
──「暇だから産後うつなんかになるんだ」という呪いも紹介されていました。
こういうクソバイスは、本当に人を追いつめますよ。ほかの呪いもそうだけど、みんなが真に受けて、自分を責める方向に考えてしまうことが多いと思うんです。そうじゃなくて、「自分自身を守ろうよ」って言いたい。イラっとしてしまう私の器が小さいの?って自分を責める必要なんてないんです。できたら人にやらないで欲しいという思いも込めましたけど、一番は、呪いを受けてしまったときに心にバリアを張ることを大切にして欲しいんです。
──呪いを書きつつ、どの立場の人がどう対処するかに踏み込んだ人間観察の本でもあります。
「人間観察の名手」ってプロフィールにも書いてあるんですよ。ほらー(と本を見ながら)。名手なの?この私が?全然そんなことないの!飲み屋のとなりの子のほうが面白いこと言ってますよ。それを書くか、書かないかの違いですから。普通の36歳です。お茶の間と同じ感覚。いや、違うなあ。お茶の間のほうがよっぽど面白い人、います。自分のほうがショボい。ツイッターなんか見ていても、面白い人だらけじゃないですか。昔編集者だったからか、面白い人を見つけると、この人たちのエピソードをまとめて本にしたいなあって思ってしまうんです。『負け美女』も『私、子ども欲しいかもしれない』(平凡社)もそうして生まれた本です。面白い人とか「へえ、こんな人がいるんだ」って人に対して考察するのはけっこう楽しい。考察という作業は、クソバイスにはすごく有効なアプローチなんです。この人にはこんなコンプレックスがあるのかなあとか、探偵みたいに考えるわけです。相手の気持ちがわかると、理解できることも多い。そうすると自分を責めないで、楽になれます。
── いま書いているテーマは何ですか?
今はありがたいことに連載をひたすら。二日に一回は〆切があります。今は本当に書きたいものを書かせてもらっているから、〆切が”圧”じゃないんです。好きでブログを書いていた昔の感覚をなくさずに仕事させてもらっている感じ。意識的に、やりたくない仕事はやらないし、自分がやりたくない仕事を受けるのは相手にも失礼だと思っています。仕事をするうえで、メンタルの維持はすごーーく大事なので。
── メンタルの維持、どうしてますか?
人に頼る。好きな仕事をする。遊ぶ。寝る。以上。これって、全員やっていいこと!何のために生きているの?遊ぶために生きてるんでしょ?あと服ですね。服が好きです。mame、TARO HORIUCHI、AKANE UTSUNOMIYAなど見ているだけでも楽しい。
── 凹んだときは?
人に頼ります。私、母の介護をしていたとき、人に頼れなくて、ひとりで突っ走っていたときがあったんです。その頃の人格はもう最悪で、本当に辛かった…追い込まれると、人って誰しも最低になるんです。今は、しんどくなったら夫に「しんどいわー」ってSOSを出して、散歩に出たり、ちょっとランチを食べにいったりします。あと、友達の存在。落ちこまないためのシステムとして、週に3,4日は友達が遊びに来てくれるんです。これが助かる。子供がいると外に出かけるのはハードルがあがりますから。私、いい家に住みたいとかって全然思わないタイプだったんだけど、今は違います。この暮らしのために家賃を払ってます。立地や広さ。友達が来やすくて、くつろげる広さがある家がいいから。
──おばあちゃんになっても、楽しそう。
そう!おばあちゃんになっても、みんなで集まって、モンハンやりたいですね。将来目をつむるだけでみんなで”うぃん”って仮想空間でつながって、その中では私はおばあちゃんではなく超いい女なんです(笑) うちの夫が死んでも、おばあちゃん仲間とゲームしますよ。
──そんな忙しい日々の中で、新しい動きもありますね。
今まさに動いているのが児童虐待に対する運動。私、テレビでコメンテーターをしていて、目黒の虐待事件の際に「この現実を変えないのはおかしい」って号泣しちゃったんです。で、家に帰ってきて「あんなこと言っておいて、何もしないのはおかしい」と思っちゃって。「 #児童虐待問題に取り組まない議員をわたしは支持しません」というハッシュタグを作って、徐々にそれが広がりつつあります。普段政治的な発言をしない人やツイッターをしない人もコメントしてくれたり、著名人の友人も賛同してくれて。新たに #こどものいのちはこどものもの、というハッシュタグも生まれました。子育て、仕事のほかに、この活動も自分にとっての柱になる気がします。
──勇気ある行動だなと思って見ていました。
正直、ずっとこういう活動はやらないって決めてたんです。政治的な発言って、仕事に差し障りがあるだろうから距離を置こうと思っていたけど、さすがにこれは変えてくれないと困るなあ…という感情が勝りましたね。素人の私が政策に口を出すというよりは、「この問題への取り組みが票に関わってきますよ」ということを議員さんに見せたい。票になると分かれば、議員さんは動きますから。たくさんのメディアの方に取り上げてもらたらいいなと思っているところです。
『アドバイスかと思ったら、呪いだった。』(ポプラ社)
「仕事ばかりしていると婚期逃すよ」──あなたのために言ってるんだよ?と優しくアドバイスする顔をして、相手を追いつめる行為は「呪い」であると断言。読者が受けたことがある/言ったことがある実例の数々に、人間観察の名手・犬山紙子が斬り返す。あるある、とうなずく一方で、どこかほろりと泣けたりしみじみ考え込んだり。レディのデスクに一冊どうぞ。
🗣️
犬山紙子
コラムニスト、エッセイスト、コメンテーター。美人の友達が恋愛で苦戦する様子を綴った『負け美女』(マガジンハウス)で2011年にデビュー。『嫌われ女子50』(NHKベストセラーズ)、『女が笑顔で殴りあう~マウンティング女子の実態』(共著:瀧波ユカリ ちくま書房)など著書多数。