日常の中で美しいものを届けたい
アート、ファッション、デザインなど、本業の「花」だけにとどまらない独特の美意識から生まれる作品で、あっという間に東京の人気アドレスとなった〈ディリジェンスパーラー〉の越智さんが登場。そのクリエイティブの源泉とは。
〈ディリジェンスパーラー〉はおしゃれな街のど真ん中にあるお花屋さん。雑誌や広告のスタイリング、パーティやイベントの装花など、ファッションシーンでも活躍が注目されるフローリスト、越智康貴さんのフラワーショップだ。
「“鮮度の高い花”を売りたいと考えています。スタッフにも『状態に気を付けて、一輪一輪が生き生きと見えるように』と、うるさがられるほど言っています。数ある花屋からこちらを選んで来ていただいたのだから、状態の良い花を、長く楽しんでもらいたい。花の丈をできるだけ長く提供しているのも、そのためです。茎を少しずつ切って活ければ、より長持ちします」
だから〈ディリジェンスパーラー〉のブーケは、お行儀よく切り揃えられることもなく、取っ手がついた透明なセロファンの中でみずみずしく咲いている。斬新で機能的。男の人でも花を持って歩く姿が様になるパッケージだ。
「ある時、街で〈プレイ コム デ ギャルソン〉の、ハートマークのTシャツを着た人同士がすれ違うのを見て、面白いな、と感じました。大衆的であることが面白いというか。花の入った透明のパッケージを持った人同士がすれ違うとき、花同士もすれ違う……その様子を文化的に感じて、自分たちの“クリエイション”だと思っています。自分自身、興味があるのは、派手なデコレーションよりも“流通”で、どれだけノイズを少なく、スマートに花を届けられるかを大事にしています。持ち運びやすいパッケージだと買いやすいし、身近になります。花を通して、日常にある価値を再発見できるように提案していきたいと考えています」
学生時代は服飾の専門学校に通い、花の仕事に携わるとは想像していなかったと話す越智さん。なるほどファッションへの関心が彼の美意識のベースにあるとして、どうやって花の道にたどり着いたのだろう。
「学生の頃に働いていたショコラティエが、フラワーアーティストとコラボレーションをしていました。それで、花という仕事があるんだな、と興味を持ちました。別の道に進むつもりでしたが、その前に半年間だけ何か違うことをやってみようと思い、花の仕事に興味を持っていたことから、21歳の時に百貨店の花屋で働きました。その後、22歳で週末だけ営業する花屋を始めて、それが今に続いています。やめようと思ったことがありませんでした」
花の基礎知識は実地で習得、ドイツのフラワーデザインを独学で研究したり……。今の形になったのは、むしろ支えてくれる周囲の人たちとの出会いが大きかったそうだ。
「周りに独自の感性を持った人がたくさんいて、その人たちと仕事をすることで、自分の“目”が開いていきました。東京には、たくさんのシーンがあります。情報もあまりにも多い。その情報から、自分の視点でモノが選べて、楽しめることが大切だと感じています。肩の力が抜けていて、新しいことや変化にも対応できる。周りにいる、そういった”解像度”の高い方々から、多くの価値観を教えてもらいました。また、店にいらっしゃるお客様からも日々学びがあり、育てていただきました」
越智さんの話をうかがいながらカウンターの花々を眺めていると、生花とは本来“生きている花”なんだなと改めて気づかされる。お客さんはすぐに色褪せる“切り花”ではなく、確かに呼吸する、エネルギー溢れる花を求めこの店にやってくるのだ。“生き生き”“一輪一輪”。彼の意図が伝わってくる。
「花材のミックスされた花束も良いけれど、花束をもらったな、という印象になって、どんな花をもらったかは認識しづらい。1種類か2種類、例えばケイトウだけ束ねた花束をもらう方が、贈り主が自分のために選んでくれたんだな、という気持ちになるし、記憶に残る花になるというか。そういう意思が嬉しいかな、と思います。花と同時に、気持ちも届くように。でもそれは、あくまでも店側の考えで、何が正解かはお客様が答えをもっていると思います。お客様の求めるものを、会話を楽しみながら引き出していく。その一連のコミュニケーションも自分たちのクリエイションです。ちょっと一輪、という時でも、軽くて早くてアクセスしやすい花屋。そんなKIOSKのような店でありたいと考えています」
ディリジェンスパーラー 表参道
東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズB1F
03-6434-7826
www.diligenceparlour.jp
Photo: Masato Kawamura Illustration: aina m snape Text: Aiko Ishii
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