境界をまっすぐ横に歩く、そんな書き方をしています
時に私たちの予想を裏切るまったく新しい表現手法で、心にドスンと響く文章を投げかける。連載第3回目は、創作や評論、エッセイなどで独自の世界を綴る文筆家の五所さんが登場。クリエイティブの根底にあるものとは。
路地奥の一軒家。五所さんの住所にはそう書き添えてある。高層ビルの谷間にある古屋。少しずつ手を入れて「まだまだ途中経過」の、それこそ小説にでも登場しそうな趣ある作業場兼居住スペース。
「二階の台所が最近の私の作業場所です。家の中でいちばん片付いている空間だから、煮詰まって机周りがぐしゃぐしゃになってくると、ここに逃げこみます。今日みたいに気候のいい日は、窓のサッシも外して。隣の小さな竹林が借景ですかね」
愛用の砂色のカップでコーヒーを飲みながら、パソコンに向かう。ちょうど公開前の映画のブックレットの仕事を手がけているところだ。ノートには端正な字でメモが書き記され、手元に打ち出された原稿が重ねられている。
「消極的に聞こえてしまうと思いますが、物書きになった経緯は成り行きです。子供の頃、世の中は見知らぬ恐ろしいもので、言葉という道具を身につけなければ渡り合えないと感じていました。なにか堪えきれずに、あてもなく言葉を覚えて、文章にしていたような気がします。だから書くことは大嫌いで大好きでした。そうして成長していくなかで、私の書いたものを目に留めてくれる人がたびたび現れました。最初に雑誌に書いたのも、学生時代に提出したレポートを読んだ講師がきっかけです。そういう連鎖で、現在は職業になっています」
例えば、書評や映画レビューの寄稿、創作の執筆、あるいはエッセイを認めるといった場合でも、“書く”にあたってそこには明確な境界線はないのだという。彼女が “文筆家”である所以だ。
「それぞれ定義上、成立要件が異なるものではありますよね。小説は虚構をつくり、随筆は体験をもとに感じたことを綴り、批評は対象について論ずる。もちろんその前提を強く意識していますが、それを守るか破るかは別です。書けば書くほど、境界の曖昧さに気づきます。私の書いたものを読んで、批評なら『これは創作だね』とか、創作なら『ここには批評が含まれている』みたいに言われることが多くて。私自身も境界をまっすぐ横切りたいと思っているのかもしれません。どのように守り、どのように破って書くか、考えるのはおもしろいです」
表現手法も斬新だ。2011年から定期開催された『五所純子のド評』を記憶している人も多いだろう。モノローグで90分語り続けるという書評のライブパフォーマンス。2010年から現在も続けている日めくり日記『ツンベルギアの揮発する夜』では、文章だけでなくアートコラージュも手がけている。
「2009年頃に雑誌の休廃刊ラッシュがあって、私は書く場所を失っていくのかなと漠然と思いました。そういう時代の流れもあって、人が書く部屋を確保するようなイメージで、ブログをひっそり始めました。手書きの文字は検索に引っかからないので、情報として抜かれることもないと考えて。以来毎日続けています(現在はboidマガジンで連載)。コラージュに使うのは、女性誌のみ。著名エッセイストの『女性誌は、読みすぎるとバカになる。読まなすぎるとブスになる』という文章を知ったんです。言い得て妙だと思ったんですが、女性たちが享受してきた文化を卑下する言葉でもありますよね。“バカ”にも“ブス”にもならずに女性誌と付き合う方法はないかと、切り抜いて貼って日記にしようと決めました。私なりの意趣返しです」
多くが行き交う都会で、人との距離感がもたらす自由さ。それに焦がれて東京で暮らし始めたが、振り返って今はこの街に大きな変化を見ている。
「都市文化があると思って東京に来ました。震災をへて、東京の街は目に見えて暗くなりました。お金がないので派手な消費文化をくりかえすことはできないし、ネットを使えば具体的な交通をほとんど生まずに済む。それが今ですよね。文化的な中心地として人を支える機能が分散していると感じます。地方に注目が集まるのと同時に、東京もひとつの地方だという見え方が私のなかで強まっていますが、いっぽうでやはり都市独自の役割と価値をみいだすとしたら何なのかなと、ときどき考えます。東京は揺れていますね」
無駄をできるだけ排除して効率化する。そういう時代の風潮にも懐疑的だ。
「断捨離とか10着コーデとか生前整理とか、ピンとこなくて。自分にとって価値があるかないか、有用か無用かなんて、そんなの自分でもわからないですよ。自分で判別できるなんて思い上がった発想はしたくないです、……片付けが苦手なだけかもしれませんが。でも、わからなさと付き合うのが愉しい。たとえば映画を観るときも、なるべく事前情報を入れないようにします。すると自分の見方とパンフレットの解説が全然違って、唖然とすることがあって。ひどい誤読なんですけど、誤読から新しい回路が生まれることがありますから。ネットやSNSですぐに“答え合わせ”ができる環境にあって、むしろ“まちがい”の独自性に賭けたくなる。私は結局、誤読を濃いめの筆圧で書いているのかもしれません」
https://boid-mag.publishers.fm/
Photo:Masato Kawamura Illustration: aina m snape Text: Aiko Ishii
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