小さな本屋、SUNNY BOY BOOKSを初めてもうすぐ4年が経ちます。本を仕入れて棚に並べて本を売る。この日々に加えてお店では定期的に展示フェアと題して、様々な作家さんの作品展示とグッズのフェアを行っています。展示の度に作家さん一人一人の作品との向き合い方や表現の仕方に刺激を受け、力をもらってきました。
いつもはおすすめの古書を紹介するこの連載ですが、今回はそんな関わりの中で生まれたSUNNY BOY BOOKS初出版の一冊『Dear,THUMB BOOK PRESS』について、大変手前味噌ではありますが紹介させていただければと思います。
本の表紙は「THUMB BOOK PRESS」版のサミュエル・ベケット『モロイ』
親指マークがサムのシンボル
こちらの本はイラストレーター、銅版画家として活躍するタダジュンさんの初作品集です。それと同時に「THUMB BOOK PRESS」という架空のプライヴェートプレスを主宰するサムという人物を浮かび上がらせる試みでもあります。サムが愛した古典的海外小説の装丁をタダさんが手がけ、柴田元幸さんや管啓次郎さん、小野正嗣さんら12名の寄稿者により語られるサムを通して彼があたかも実在したかのように展開される図録的一冊。つまるところサムとはタダさんのことなのですが、そんなことはお構いなしにみんなサムについて大いに語ってくれています。
サムが残した作品一点ずつにはコレクターによるテキストが寄せられています
この本を作るきっかけは1年前にお店で開催したタダジュンさんの展示にあります。「文庫と小文庫」と題し、架空の出版社の装画シリーズをタダさんが手がけたというものでした。その架空の出版社というのが「THUMB BOOK PRESS」です。展示終了後、この素晴らしい作品たちをこのまま終わらせしまうのはもったいない、もっとたくさんの方に知ってほしい、そう思ってタダさんに本にしたいと相談しました。
といっても本は売るのが専門なので作ったことなどありません。最初は身構えましたが、お店の周年記念冊子を一緒につくってくれているデザイナーの友人に協力してもらうことで制作に向け一歩踏み出すことができました。
それからタダさんともたくさん話しました。その中でサムという存在しない人物を主人公にした物語を作り、この本を通して彼がいたというもう一つの世界を作り上げようと決めました。タダさんにはサムとして新作を10点作っていただき、本書には合計20点の作品が収録されることになりました。
宝物のようなサムの作品たち
4月20日(木)までSUNNY BOY BOOKSで開催している原画展では立体作品も飾られています。こちらはヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』
サムの人物像や作品との向き合い方に耳を傾けながら年表も作り、今では彼がどこかに実在しているのではないかと思っています。というか信じています。それくらいにタダさんが信じた「THUMB BOOK PRESS」の世界にぼくも魅せられ、突き動かされました。
現実の世界と交差するサムの年表
詩人としての顔も持つサムが残した詩も収録
信じることで物語は手にした人それぞれの「本当」に変わっていくのだと、タダさんの作品や寄稿者の物語が教えてくれました。ちょっとした空想からはじまって、サムの物語に取りつかれた大人たちが彼に敬意を込めて作ったのが『Dear,THUMB BOOK PRESS』です。作り手たちの楽しさやわくわくとともに、ひとりでも多くの方にサムの仕事をみていただけますように。
『Dear, THUMB BOOK PRESS』
著:タダジュン / 価格:2.200円(税別) / 判型:H229×W154 / 72p / 制作・デザイン: SUNNY BOY THINGS / 発行: SUNNY BOY BOOKS
SUNNY BOY BOOKS / URESICA / POPOTAME にて先行販売中。
2017年4月下旬よりSUNNY BOY BOOKSオンライン他、一部書店やギャラリーなどで発売開始予定。