中目黒に登場した人気ドメスティックブランドの旗艦店。ブランドのものづくりの哲学が隅々まで行き渡る、古い一軒家を改装した心地よい空間です。#東京ケンチク物語
中目黒の古い一軒家をリノベーション「WMV VISVIM TOKYO」:東京ケンチク物語 vol.21

WMV VISVIM TOKYO
ダブリューエムブイ ビズビム トーキョー
モードなコもストリートっぽいコも、カルチャーキッズもいて、行き交う人たちはすごくファッショナブルなのに、大通りから一本入れば昔ながらの青果店や民家があり、下町らしさも残る。中目黒はいかにも、多くの価値が共存する東京らしいエリアだ。国内外で高い人気を誇るファッションブランド〈visvim〉のウィメンズライン〈WMV〉が、日本初の旗艦店の場所に選んだのもこの街。駅からすぐの目黒川沿い、1970年代に建てられた一軒家をフル改装。リノベーションのデザインはすべて、ブランドのデザイナー、中村ヒロキが手がけた。
アプローチの風情は、まるで茶室や料亭のようだ。杉皮葺きの屋根を載せた門やのれん、敷石、竹の穂を編んだ垣根。木製のドアを開けて店内に入ると、今度はまったく別の驚きが待つ。2フロア分を吹き抜けにした天井の高い空間。大きな窓越しに、目黒川沿いを歩く人々と桜の木が見える。
自然光の入る店内がとても優しい印象なのは、白壁が本漆喰によるものだから。高さ10m近い壁面を、金沢の腕利きの左官職人が塗り上げたのだそう。注意深く見てみると、確かにその手の痕跡が残り、柔らかな表情を醸し出しているのがわかる。この壁に始まり、店内は、どの角度から何を見ても、鍛錬を重ねた職人たちが、自然素材を使って繊細な仕事でつくり上げたものばかりだ。モルタルを流し込んだ後に表面を洗い出して中の小石や砂利を現した床や、木の面に削り跡を残していく〝なぐり〟の技法を施したカウンター、越前和紙「雁皮紙」のふすま紙に、〈visvim〉のオリジナルのパターンで型摺り染めを施した中央の収納部の引き戸……。さらに店の奥には、名庭師・安諸定男が手がけた坪庭も見える。隅々まで行き届く美しさは、どれも人の温もりに満ちて穏やかだ。
丁寧な手仕事に囲まれることの豊かさを教えてくれるのは、アジアやアフリカの少数民族や先住民族の匠の技にもインスピレーションを受けてきた〈visvim〉のものづくりそのものでもある。人の手がつくるものは、美しく、心地よい。ブランドを体全体で体験させてくれるフラッグシップショップだ。
WMV VISVIM TOKYO
住所: 東京都目黒区青葉台1-22-1
TEL: 03-6303-3717
営業時間: 11:00〜20:00
休館日: 無休
www.visvim.tv
東急東横線中目黒駅より徒歩3分。
2019年12月オープン。日本の職人たちが仕上げた空間に、ジョージ・ナカシマのテーブルやネイティブ・アメリカンのラグなど“手仕事”を軸にしてスタイルミックスしているのも見どころ。ポイント的にヴィヴィッドな色使いをしているところなど、インテリアの参考にもなりそうだ。〈WMV〉の旗艦店は、この東京店とアメリカ・サンタフェ店だけ。〈WMV〉をメインに〈visvim〉の商品もそろうほか「little cloud coffee」も提供している。
Illustration: Hattaro Shinano Text: Sawako Akune Edit: Kazumi Yamamoto