「アクセや小物を手作りして売りたい」「自宅で料理サロンを開きたい」など、好きなことの延長でスモールビジネスを起業したり、ライフワークになるような兼業をしてみたいと憧れる人は多いはず。
新しいことにチャレンジしたいけれど、夢に近づく第一歩をどう踏み出せば良いかわからない女性に向けて東京大学を卒業後、外資系企業を経て、農家での経営改善が話題となっている、“改善のプロ”・佐川友彦さんに考え方のコツを聞きました。
最終回は、まずは「与えることから始める」という佐川さん流のビジネス思考法です。前回の「社会や組織が求める、ジェネラリストとは?」も合わせてチェック。
まずは『give』から始めてみる。スモールビジネスのススメ vol.05
●100%のgiveから起こること
『give』から始める事業の力強さを感じたのは「阿部梨園のオンライン知恵袋を作りたい」と立ち上げたクラウドファンディングです。3年にわたる阿部梨園の経営改善のノウハウを無料公開するプロジェクトなのですが、中身を伏せたまま支援を募る設計だったので、理解を得られずに目標金額を達成できないかもしれない、と不安がありました。
はじめてみると、農家さんばかりではなく、農政に関わる公務員さんや消費者の方など非農家の方含め、たくさんの共感と資金が集まりました。giveの想いが伝わって、「日本の農と食を応援したい」という大きな気持ちをこのプロジェクトに託してもらえたんです。
これも目先の利益を考えるのではなく、広く開かれたソーシャルなプロジェクトにすることでこれだけの支援が得られ、「小規模農業の経営改善と存続」という課題に注目を集めることができたのだと思っています。
●最初からビジネスは考えない
今では『農家の右腕』として、全国の生産者のみなさんと課題解決を進めていますが、スタートした頃は、自分がこの道でビジネスをしていけるとは思えませんでした。
阿部梨園での仕事はとにかく楽しかったですし、他の農家さんに対してもすぐに対価を得る商売ではなく、相手のために必要なことを手弁当でしていたら、気がつくと道が開けていたように思います。
まずは、目の前の農家さんが喜んでくれることや、少しでも状況がよくなるような小さい課題を見つけ、一緒に現場で取り組んでいきました。その結果「阿部梨園での経験を別の農家にも還元して欲しい」と農家関係の知り合いから仕事として依頼をいただくように。
真面目な人ほど最初に、こういうスキルでいくら稼ごうと計算してしまいがちだと思います。ですが、こうすれば誰かの役に立てるんじゃないかという気持ちが、いつの間にかビジネスになったりします。
●必要としてくれる人のところに行こう
物を作って売る、情報発信をするなど、ビジネスにまつわる行為は、それを通じて幸せになる人がいるはずです。なので、相手がどう喜んでくれるかをイメージしながら取り組むことは、仕事を始める上で大事なことだと思います。
好きなジャンルの中で課題や問題を見つけ、自分ならどう解決するかと考えたり、同時に社会の中に足りないこと、誰かが不幸になっていることに目を向けていくと、必要とされるキャリアになりやすいです。僕の場合は農家の現場に行くことで、そうしたものをたまたま見つけることができました。人との出会いや縁をきっかけに思い切って動いてみることで、テンプレには乗らない自分の人生が作れる可能性もあります。
大きい企業が強いわけではない時代です。誰かを幸せにしてあげられる小さなスキルを見つけて、必要としてくれる人のところに行ってみるのも良いかもしれません。
この連載では、ビジネスにおける色々な考え方や習慣改善をご紹介してきましたが、小さな積み重ねは人を変える力があると思っています。梨園のスタッフにも日々してもらっていたのは「仮説を立てて検証する」ということです。適度に苦労やチャレンジすることは大切で、自分にとって適切な背伸びをすることで達成できるような目標を設定すると良いと思います。
日々の改善によって、みなさんの「好き」が仕事に繋がっていくことを願っています。
🗣️
佐川 友彦
1984年生まれ。東京大学農学部、同修士卒。外資メーカーDuPont社の研究開発職を経て、2014年9月より栃木の阿部梨園に参画。阿部梨園では代表阿部の右腕業として、経営管理、企画、経理会計、人事労務など、経営に関するオフィス機能の全てを担当。その改善実例300件を公開するクラウドファンディングを実施し、300人以上から約450万円の支援を集めて話題を呼んだ。現在は、経営コンサル等を行うファームサイド株式会社を起業。2020年9月、ダイヤモンド社より『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』を出版。
Illustration:Hiroaki Seto Text: Mariko Kojima Edit: Karin Ohira