海を越えて届けられたOSRINさんの情熱
孤独と葛藤を綴った「Prayer X」のMVは、”強制された栄光”がテーマである。山田遼志さんは、依頼者でもあるディレクター・OSRINさんの誠実さに胸を打たれた。
「ミュージシャンの”声”を聞かない支持者たちと、懐を肥やすために豊かなクリエイティビティを搾取する大人。天才がたどってしまうであろう残酷な道筋を表現してほしい。むしろ、この物語を絶対に伝えなきゃいけないんだ、と。オファーを受けた当時は文化庁新進芸術家海外研修派遣員としてドイツへ移って研究のための準備をしており、OSRINくんとは面識がなかったんです。その僕にメールを通して熱弁をする姿に噓はなく、信用できると感じました。富と名声を得るための下心を持って理論を振りかざす人がほとんどなのに、彼は真逆。自分の夢を真摯に追求しているんですよ。もともと、2016年頃にイベントでVJとして常田大希くんとセッションして知り合ったので、引き受けました。冒頭のストーリーをふまえての要望はひとつ。僕のテイストを全面に出してほしい、と。自分の色は封印しなきゃいけないんだろうなぁ、とぼんやり考えていたので意外でしたね」
現代社会が抱える不安や恐怖をモチーフにし、観る者の心をざわつかせる山田さんならではの手腕を遺憾なく発揮。
「僕は5回ほど観ないと咀嚼できないような謎かけや風刺を映像に込めるんです。本作では拝む人々が象徴的かな。頭の大きい彼らには耳が無い。聴いてもいない音楽を崇める異常さを表現しています。集団が同じ顔である理由を暴く一幕を差し込む予定でしたが、やめました。すべてを明かさない方が面白いじゃないですか。群衆の狂気には個人的にも興味があるので、これからも追っていきたい題材のひとつです」
人の歩みと過ちを教える父母から
語らない美学を培う
すぐに理解できるものではなく、触れるたびに沁みる。そのスタイルは教壇に立つ両親からの影響が大きいそうだ。
「母が東ヨーロッパやロシアの歴史研究者で、父は歴史の教師です。両親の影響で、幼少期から旧共産圏の作品や歴史に触れていました。言論統制化においては、対社会や隣人への猜疑心などによって、人間が人間らしくなくなっていくというような、問題提起をする作品が多くあります。そのなかでいかに検閲を潜り抜けるか。そのための表現に工夫を凝らしていて。そんな作品に影響を受けました。思考停止を促進する社会といかに対峙するかが、僕のテーマのひとつだと思っています。また留学先としてドイツを選んだのは第二次世界大戦で敗戦し、加害国となった同じ境遇の国だから。大戦以後、またソ連崩壊後の歴史にも興味がありました。もちろん、アニメーターとしての技術を磨き、映像を生業にしている人々が置かれている環境を知るのが第一目的ではありました。そもそも、修了後にはフランスやポーランドなどを活動拠点にする予定だったんです。でも、ヨーロッパで日本的なものを制作しようとした際に資料が足りない。特に戦前後で変わる日本人の意識を記録したものが少ないんですよ。だから、ホームでまだまだ勉強することはある!と、戻ってきました」
2019年9月に帰国。MVを手がけて1年が経過。その間にKing Gnuはメジャーデビューし、音楽業界を席巻。
「OSRINくんは『Prayer X』の再生回数が300万、1000万と記録更新をするたびに報告がありました。でも、距離と時差があったので、そこまで実感はなかったんですよ(笑)。公開から半年後くらいに僕のTwitterをフォローしてくださる方が増えて、きわめつけは『NHK紅白歌合戦』への出場。世を揺さぶる彼らには刺激を受けています」
短編アニメとの出合いで進む道が定まる
豊かな発想力を持つ山田さんの転機は学生時代に訪れる。
「映画監督を志していた父にフェデリコ・フェリーニなどを教わりました。欧州の映画を筆頭に良作に触れるにつれて、映像クリエイターへの憧れが膨らんでいって。一方で、小さな頃から絵を描くのが好きだったので、画家を目指した時期もありました。大学時代には世界中のアニメーションを鑑賞。なかでも『AKIRA』『EXTRA』『大砲の街』の衝撃は大きく、この道を志すきっかけになりました。
僕の作品には、仏、ポーランド、ロシア、日本、中国といったさまざまな要素がある。それが個性で、島国で創造する強みですよね。また、作品を通して歴史から学ぶ尊さも伝えていきたい。足並みをそろえることよりも、相手と対等に議論し互いに思考を深めていく。そのきっかけになれればいいですね」
King Gnu「Prayer X」(2018.9)
3分19秒の間に稀有な才能がつぶされていく。目と顔をぐるぐるさせて苦悩する音楽家から目が離せない。肥大していくピアノやイエローでつながるアイテムなど、随所に彼の絶望がにじむ。2枚目のシングルCDは、TVアニメ『BANANA FISH』のエンディング曲でもある。
短編作品『Firehead』(2019.9)
文化庁の海外派遣研修員として在籍していたドイツ・フィルムアカデミーでの修了課題で製作。頭が炎に覆われた人々の身体は、蝋燭でできている。溶けてしまわぬ前に、互いの蝋燭を奪い合おうとする群衆。利己的な考え方がまかり通る現代社会の在り様を、炙り出している。
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