6月25日に最終話が放送された土曜ドラマ『パンドラの果実 〜科学犯罪捜査ファイル〜』(日本テレビ系)。ディーン・フジオカ、岸井ゆきの、ユースケ・サンタマリアらが最新科学で奇妙な事件を解き明かす。数々の奇妙な事件の先にいたのは、不老不死の世界を実現しようとするウイルス学者の榊原康生(加藤雅也)だった。ドラマを愛するライター・むらたえりかが考察します(レビューはネタバレを含みます)。
もっと考察『パンドラの果実』ディーン・フジオカと岸井ゆきのが必ず家に帰る理由
人間を選別するための人工的なウイルス
小比類巻(ディーン・フジオカ)の娘・星来(鈴木凛子)を誘拐した榊原。彼は「不老不死」にこだわっているかに見えた。しかし、小比類巻らの上司・島崎(板尾創路)は、長谷部(ユースケ・サンタマリア)に言う。「榊原が言う『最後の審判』は、神が人間を裁く終末論的な思想」「『不老不死』とはかけ離れている」と。
島崎の考えは当たっていた。榊原の目的は、「新型プロメテウス・ウイルス」を作り出して人類の選別をすることだった。そのウイルスに感染すれば大抵の人間は死ぬ。身体がウイルスを受け入れたごく少数の人間だけが、不老不死となり生き残れるのだ。
「科学的に可能だとわかっていることは、どんなに恐ろしいことだとしてもやり遂げなくてはならない」
この言葉を大切なもののように口にする榊原。原爆の開発に関わった数学者・物理学者のジョン・フォン・ノイマンの言葉だという。対して最上(岸井ゆきの)は「科学には、超えちゃいけない一線がある」と、自分に言い聞かせるかのように言っていた。結局、榊原は自分にウイルスを打って「最後の審判」をあおぐ。
星来を救い、榊原の計画を止めようとした小比類巻たち。ただ、小比類巻もまた榊原とは別の形で「死なない身体」を望んでいる。彼の妻で星来の母・亜美(本仮屋ユイカ)は5年前に死亡。小比類巻の希望によって、蘇生のための科学技術が発達するまで冷凍保存されている。このドラマは、不老不死が人間にとって良いものか、悪いものかという審判をまだ下していない。
ドラマを象徴する「うさぎりんご」
第9話で「りんごでもむきますよ」と申し出た長谷部に、小比類巻の義母であり亜美の養母である聡子(石野真子)は「私がむきます」と返した。その表情には、長谷部に遠慮したというだけではない、責任を背負いこむような重さがあった。
聡子は、亜美が榊原の父親による遺伝子操作によって生まれた「悪魔の子」であると知っていた。そして、亜美が持つ「エルマー遺伝子」という強い遺伝子を、星来が受け継いでいる可能性もわかっていたのだ。星来が誘拐された理由は、その遺伝子を使った実験・研究のためだった。
星来は聡子がうさぎの形にむいたりんごが大好きだ。母親の亜美もそのりんごが好きだった。最終話のラストシーンで、星来の誕生日にりんごがむかれる。亜美に出生の秘密について隠していたという聡子に、小比類巻は、実は自分もうさぎりんごが好きなのだ、と打ち明ける。小比類巻の些細な秘密の開示は、「罪の意識を重く抱く必要はない」という聡子へのメッセージだろう。
人間の「智」を表すりんごの実。イエス・キリストの「“復活”祭」に関わるうさぎ。「うさぎりんご」に、こんな意味を含ませるとは。星来と小比類巻、亜美がうさぎりんごを好きだという宣言は、6月25日からHuluで配信がスタートしたSeason2でも、まだまだ「智」を追い求め、亜美の蘇生を目指すことを示唆しているようだ。
「日常に帰っていくこと」を大切に
『パンドラの果実』は、どんなに不可思議でつらい事件が起こっても、最後には小比類巻の家に帰り、最上や星来、聡子らが日常の風景に戻っていく。それは、ただのオチのパターンではないはずだ。
「トンデモ」と思われてしまいそうな事件や科学技術が多数登場したこのドラマだが、警察、医療、科学の専門家に監修を受け、「可能な世界に近づきつつある」ことを考慮して制作されている。それらは、いつか暮らしの中に当たり前に組み込まれていくかもしれない。
「苦しくて逃げ出したくて、反吐が出そうになることもあるのが人生」
何度も科学に裏切られ、そこから離れたこともある最上はこう言った。それでも、科学は希望であり、科学を信じてしまうジレンマを彼女は抱えて生きている。
人を救うための科学も、人を選別するための科学も、最後には必ず「人々の生活」に降りてくる。科学技術やそれが持つ諸問題を身近なものとして感じてほしいというドラマの願いが、必ず彼らが帰っていく「小比類巻家の日常」に表現されていたのではないだろうか。
ディーン・フジオカの「弱さ」
第8話、小比類巻が最上に弱音を語る場面があった。亜美が死んでから、彼女宛てに海外から届いた荷物がある。彼は、それを開けたら亜美の死を受け入れてしまうようで、ずっと部屋のデスクに置いたままにしているという。
ディーン・フジオカは、主演ドラマでは『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)の「脅迫屋」や『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』の復讐者役、『シャーロック アントールドストーリーズ』の探偵役(ともにフジテレビ系)と、浮世離れしていて他者を翻弄するような役柄を演じてきた。そんな彼が『パンドラの果実』では、それらとは違う演技を見せている。
亡くなった妻を冷凍保存してしまうのは、愛情とはいえ行き過ぎた行為に見えたが、それは、小比類巻の心の「弱さ」でもある。肩を落とし、自分より10歳も年が離れた最上に弱音を吐く姿にもそれを感じた。
また、小比類巻が星来をかまう場面は、ディーン・フジオカが我が子に接している様子が見えるようだった。2015年放送の『あさがきた』(NHK)で「五代様」を好演して以来の愛称である「おディーン様」が、「ディーンさん」くらいの距離に近づいたように感じる表情をたくさん見せてもらえた。
Season1では、小比類巻は亜美の蘇生まで辿り着けなかった。Season2でのアプローチによっては、榊原のような人間に変わっていってしまうかもしれない。しかし、「長谷部と最上がそばにいればきっと大丈夫だろう」という信頼を、すでにこのドラマに抱いてもいる。
新キャスト・吉本実憂のアクションシーンなど、楽しみも増えるSeason2。期待して見続けたい。
日本テレビ×Hulu共同制作ドラマ『パンドラの果実 ~科学犯罪捜査ファイル~』公式サイト
脚本:福田哲平、関 久代、土城温美
監督:羽住英一郎
出演:ディーン・フジオカ、岸井ゆきの、佐藤隆太、西村和彦、本仮屋ユイカ、安藤政信、板尾創路、石野真子、ユースケ・サンタマリア
原作:中村啓『SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』 (光文社文庫)
主題歌:DEAN FUJIOKA 『Apple』
音楽:菅野祐悟
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Writer むらたえりか
ライター。国内・韓国ドラマやアイドル写真集のレビュー、インタビュー記事などを執筆。宮城県出身。
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Illustrator pon3
イラストレーター・デザイナー。物語を大切に、印象に残るイラストを目指してます。日々の疲れはサウナが癒し。
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