―「偶然のようで必然」と石原さんが話す、八木さん、柿本さんとの出会い。石原さんにとってのお二人の存在について教えてください。
石原海さん(以下、石原) 八木さんと絹がいなかったら、『重力の光』を作っていなかった。「この人たちじゃなきゃ!」って思えるメンバーが、偶然のごとく同じ場所に集まったんですよね。北九州に引っ越したばかりの2020年の夏は、そもそも映画を撮る構想もなくて…。八木さんと出会ったのが移住した半年後で、撮影がスタートしたのがさらにもう半年後。何も予想できない状態でスタートし、1、2年かけて少しずつ完成に向かっていきました。制作期間中も、発表した時も、そしてこれから先も、『重力の光』と向き合って、全部背負える人たちと一緒に作りたかった。たまたま私が監督だっただけで、スタッフのみんなが少しずつ映画を背負ってくれて、出来上がった作品です。

八木咲さん(以下、八木) 映画の現場で撮影を担当すること自体が初めてだったので、不安なことも多かったのですが、東八幡キリスト教会とは近しい関係で、とても大切な場所だったので、やってみようかなって引き受けました。しんどいことも多く、被写体のいちばん近くにいる自分が崩れちゃだめだって気を張っていたんですが、東京に帰ってきてから一週間くらい起き上がれなかったな……。

柿本絹さん(以下、柿本) ただのお手伝いのつもりで北九州に行ったので、毎日がはじめての連続でした。映像の現場自体初めてで香盤表(撮影などのスケジュールが書かれたもの)ってものすら知らなかったし、「めっちゃやることあるじゃん!」って(笑)。でも海ちゃんのことが本当に好きだし、絶対協力したかったので、わからないなりに奮闘しました。ダメダメだったけど、みんなが優しかったから、なんとか乗り越えられました。

石原 ダメダメな人しか集まってないから(笑)!アタシはキリスト役の菊ちゃん(菊川清志さん)と泣きながら衝突したこともあるし。撮影中に迷惑をかけたり、ハプニングがありながらも、教会のみんな、スタッフのみんなに許してもらっていた。だから、完全に素の自分で撮影に臨めたんですよね。
八木 海ちゃんって、本当にそういう人。すごく人間らしいんですよね。いつだって、逃げ出さずに対峙している。わたしは海ちゃんだし、海ちゃんはわたしだったと思う。絹ちゃんも同じ。だから海ちゃんの見てる世界をありのまま記憶しようと思いました。生き辛さ苦しさも絶望も闇も。真っ直ぐすぎる愛も光も。
柿本 うん、今まで出会った中で、いちばん素直な人。
―東八幡キリスト協会に集う個性豊かな面々。いちばん下は13歳、上は88歳という9名が演じる聖書演劇、それぞれが半生について語るインタビュー、彼らの日常を追ったドキュメンタリーと、様々なアプローチで教会に集まる人々の生き様が描かれています。撮影方法について、石原さん、八木さんの間でどのようなコミュニケーションを交わしましたか?
石原 演劇の稽古の様子は、静謐な雰囲気にしたくて、三脚の使用をお願いしたのですが、八木さんの良さが死んでしまったんです。写真家の八木さんにとって手に持つカメラがどれだけ重要かっていうことがわかり、すぐに手持ちに切り替えてもらいました。ステディカムで撮った安定した映像が一般的ですが、『重力の光』ってずっと不安定なんです。その場その場での必死さが画に表れていて、本当に良かったなって思っています。綺麗に撮ることだけを考えたら、完全に傍観者の視点になってたと思うんですが、八木さんはハンディでどんどん近寄っていく。そんな風にガタガタしているドキュメンタリーシーンの一方で、たとえば丘の上で天使役の下別府さんが舞う、イメージ寄りのカットはすごく安定しているのも面白い(笑)。同じ手持ちなんですけどね。
八木 気持ちのブレだったのかな(笑)。モノクロのインタビューシーンは、カメラ位置とアングルを決めて、全員同じ見え方になるように心がけました。聖書演劇のシーンもアングルをしっかり決めていたかな。でも、ドキュメンタリーは必死! その場で起きることをひとつも逃せないから、こっちも、あっちもな状況でしたね(笑)

―2021年9月に資生堂ギャラリーで発表された短編『重力の光』を経て、2022年2月に恵比寿映像祭で長編『重力の光:祈りの記録篇』が上映されました。完成した作品を観て、八木さん、柿本さんが改めて感じたことは?
八木 光の中で自分の体が浮かび上がるような感覚があったし、“救い”も感じました。でも、いちばん嬉しかったのは、この映画がいろいろなところへ連れていってくれるって実感できたこと。皆で作ったからこそ、自分ひとりでは辿りつけない、もっと遠くの場所に連れていってくれるんでしょうね。終わらない旅の始まりに、すごくワクワクしたのを覚えています。光を見つけて、フワフワ浮きながら、皆でどこまででもいけるなって。
柿本 恵比寿映像祭で完成した作品を見て、暗い映画ではあるけど、確実に“光”なんだって実感しました。今でも日々絶望することが多いけれど、この作品や作品を通して出会ってしまった人を思うとなんとか生きられる。
石原 八木さんも、絹も、教会とこの作品を、自分ごととして受け止めてくれていることがすごく嬉しいです。一人だったら「ダルいから歩くのやめよう」ってなるかもしれないけど、皆でいると、途中で休憩をしたり、寄り道しながら、歩き続けることができる。恵比寿映像祭の前に編集しながら、この映画って終わらないなって思ったんです。なぜかって、私たちが出演者と共に生きているから。完成しても、みんなの人生は続いていくし、ふと「終わりにする必要があるのかな?」って思ったんです。アップデートを重ねながら『重力の光』は続いていく。そんな映画があってもいいのかなと思っています。

八木 10年、20年と被写体を追い続けて、完結したドキュメンタリーはあっても、その先この人たちはどう暮らしているのだろうって考えることが多くて…。『重力の光』も、2022年版、2026年版っていうものがあってもいいですよね。みんなの暮らし方、抱えている事情によって、撮る視点も、使うカメラも変わると思うんです。もちろん北九州の街の風景も。だから、これからも撮り続けるのかなって。
石原 2022年のはじめ、八木さんに追加撮影をお願いしたんです。私は撮影に立ち会えず、八木さんにお任せしていたのですが、撮ってもらったデータを観たら、まるで天国の映像みたいだった。半年かけて2021年にみんなで映画を作ってきて、完成後に追加撮影をお願いしたら“すべてを経た映像”があがってきた。一人でお酒を飲みながら八木さんからもらった映像を見て、つい泣いてしまいました。今回、シアター・イメージフォーラムで上映される作品には、そのシーンが追加されています。実は撮影の後、スタッフのみんなに嫌われているんじゃないかってビクビクしていたんです、とにかく大変な撮影だったし…。でも今日二人と話してみて、愛されていたんだなって安心しました(笑)。本当にスタッフと出演者に支えられて、全員の頑張りと愛で出来上がった作品になっていると思います。