2023年7月7日(金)まで、東麻布の「Cale」にて、グラフィックデザイナー・坂脇慶の個展『Individuality of temporary moments 変化していく瞬間と総体』が開催中。自分の中には“他人とは共有できない部分が存在する”ことを自覚し、それをグラフィックのプリントという目に見えるカタチで示唆する。
グラフィックデザイナー・坂脇慶が個展開催
ランダムな要素の発生を待って生み出したユニークなグラフィック作品
東麻布の「Cale」にて、興味深い展覧会が開催されている。グラフィックデザイナーの坂脇慶による個展『Individuality of temporary moments 変化していく瞬間と総体』だ。
グラフィックデザイナーという仕事には、通常、クライアントが存在する。依頼や要望に対してアイディアを提案し、作品を制作していく。つまり、ときにはデザイナー本人の美的感覚ど真ん中ではない角度から進行せざるを得ないことも、なくはない。しかし今回の個展で発表されるのは、坂脇自身が「グラフィック」と考えるイメージのプリントなのだそう。
展示されるのは、媒体に出力された“物”。よって、これ自体が動くことはない。ただこれらの作品は、フォトショップ上にドロップした色の素材を、フィルターを用いて変容させ続け、作者が「ここだ!」と感じた瞬間でクロップしたものだという。つまり、プリントされたグラフィックの前後には違う姿が存在していて、目にしているのは連綿と続く時間の帯の一部だった、ということだ。展覧会名になっている「変化していく瞬間と総体」とは、クロップした瞬間と、実はその前後にも繋がるグラフィックがあるという総体を指す。
「自分とは本当に当てにならないもので、ある事情に判断を与えなくてはいけないときに、Aという思いと、その真裏にあるBという思いを同時に抱くことが往々にしてあります。他者とコミュニケーションを取るためにどちらか一方を自分の意見と仮定してみても、あくまでも一時的なもので、時間が経てばAやBでもない、CやDが現れることも。一貫性のある自分の判断があるのはごく稀で、そこにはAやBという思いではなく、AやBやCやDの間をゆっくりと、または高速で行き来を繰り返す、他人とは共有することができない運動?時間?空間?が常に“ある”という事実のようなものが存在していると考えています」と、坂脇は話す。
ものづくりとは、完成に向かって意匠を凝らす行為であるのに対し、今回の作品は「ここだ!」の瞬間を待って作られているという点も、とてもユニークだ。ぜひ会場で、グラフィックデザインそのものを見て、その前後に存在している目に見えぬ姿にも思い馳せてみてほしい。
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坂脇慶個展『Individuality of temporary moments 変化していく瞬間と総体』
会期: 開催中〜2023年7月7日(金)
開廊時間: 13:00〜19:00
会場: 東京都港区東麻布3-4-6 Cale
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坂脇 慶
さかわき けい
1982年生まれ。アートディレクター/グラフィックデザイナー。主な仕事に雑誌『STUDIO VOICE』 や『PARTNERS』、千葉市美術館で行われた目[ mé ]『非常にはっきりとわからない』展、近作ではceroのニューアルバム『e o』などのアー トディレクションなど。書籍ではVirgil Abloh『Dialogue』、小浪次郎『黄色い太陽』、石川直樹『東京 ぼくの生まれた街』のデザイン。ファッションではCAVEMPTの2020A/Wのフォトディレクション、AURALEEのWEBサイトリニューアル、渋谷スクランブルスクエアのキャンペーンSCRAMBLE SPRING、SCRAMBLE AUTUMNのアートディレクションを2022年より担当。その他、音楽フェス『POP YOURS』やTV番組 『POST-FAKE』のロゴタイプなど。今回の展示が初めての個展となる。今夏、写真家 題府基行と新雑誌の刊行を準備中。
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Text: Ayako Tada