《禍々しき桐絵》2023年 ©伊藤潤二/小学館
独創的な作風で国内外にファンを持つ伊藤潤二。2024年4月27日(土)から9月1日(日)、「世田谷文学館」にて初の大規模個展『誘惑』が開かれる。自筆原画やイラスト、描き下ろし新作が揃う様は圧巻の一言。
展覧会『誘惑』が「世田谷文学館」にて開催
《禍々しき桐絵》2023年 ©伊藤潤二/小学館
独創的な作風で国内外にファンを持つ伊藤潤二。2024年4月27日(土)から9月1日(日)、「世田谷文学館」にて初の大規模個展『誘惑』が開かれる。自筆原画やイラスト、描き下ろし新作が揃う様は圧巻の一言。
パリで書店の漫画コーナーに行くと、必ず伊藤潤二の平積みを見る。知り合いの若いおしゃれな男の子は、『うずまき』の絵柄がデザインされたTシャツを着ていて、「ジュンジの絵の美しさは尋常じゃないよ!」と熱く語ってくれた。
伊藤潤二は1986年にデビュー。歯科技工士として働きながら投稿した楳図賞での佳作受賞がきっかけだった。美人画をも思わせるヒロインに、執拗なほど緻密に描き込まれた“異形”の姿や背景。そして何より、人間の本能的な恐怖心を巧みに炙り出すストーリーテリングによって、「ホラー漫画」の枠にとどまらない評価を得てきた。2019年から2022年にかけては、米国の権威ある漫画賞のひとつ、アイズナー賞を4度受賞。2023年には日本に次いで多くの漫画読者を擁するフランスの国際アングレーム漫画祭にて特別栄誉賞を受ける。同年、ネットフリックスにて代表的作品をアンソロジーにしたアニメ『マニアック』が独占配信。伊藤の世界観に惹きつけられる人は、国内外でますます増加中のようだ。
2024年4月27日(土)、そんな盛り上がりを反映するかのように、待ちに待った大規模個展が始まる。「世田谷文学館」にデビュー作の『富江』、『うずまき』、『死びとの恋わずらい』などのシリーズものをはじめとした原画が集合。本展のために書き下ろされた新作や、フィギュア原型師・藤本圭紀によるフィギュアも登場する。
伊藤作品では、絵の美しさがそのままおどろおどろしさを呼び込んでいる。さらに、『首吊り気球』で見られるように「顔」と「風船」という取り合わせをさらりと持ってくるセンス。人体のリアリティに忠実なグロテスクな描写。そういったビジュアル面に加え、突飛な発想に支えられたストーリーが唯一無二の作風を作り出す。人がカタツムリになってしまう(『うずまき』)、死んだその場所で墓標が生えてくる(『墓標の町』)など、「おかしな世界」の設定の力強さも、絵柄と並ぶ大きな魅力に違いない。
そこでの「怖い」は、幽霊やアンデッドによるものでもなければ、パニックやサイコスリラーでもたらされるものとも少し違う。たしかに奇妙な宇宙が広がってはいるが、真のトリガーは人間誰しもが持つ驕りや自己愛、すなわち世界と自己との間にある「ズレ」なのかもしれない。その違和感が美しい絵の力によって爆発的に表現されたところに、伊藤作品の恐さが生まれているのだろう。本展では、表裏一体となった美と恐怖を存分に味わいたい。
会期_2024年4月27日(土)〜9月1日(日)
会場_世田谷文学館 2階展示室
住所_東京都世田谷区南烏山1-10-10
Tel_03-5374-9111
時間_10:00〜18:00(入場とショップ営業は17:30まで)
観覧料_一般1,000円、大学・高校生・65歳以上600円
*5月15日(水)は「国際博物館の日」を記念して入場無料。
Text_Motoko KUROKI