名だたるファッション・ブランドからフード・インスタレーション制作の依頼が絶えないアーティストのライラ・ゴハー。ニューヨークを拠点にする彼女が日本にやってきた。マリオット系の「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」のためにデザインした、バーアイテムの発表ためだ。グローバルトラベラーとして世界各地を旅するライラの目に日本はどう映ったのか。ライラ自身が撮影した旅の記録を見ながら話を聞いた。
ライラ・ゴハーが旅する理由
デザインを手がけたホテル用バーアイテムを日本で発表
竹林の名所として知られる京都屈指の観光エリア、嵐山。ここに建つ、「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」から、ニューヨークを拠点にするアーティストのライラ・ゴハーがデザインしたバーアイテムが登場した。このホテルは、世界150以上の都市で展開する、マリオット系のザ ラグジュアリーコレクション ホテル(以下、TLC)のひとつ。TLCのグローバルアンバサダーでもあるライラは、3つの都市、ロサンゼルス、パリ、そして京都のホテルで使うバーアイテムをデザインした。先ごろ、京都の翠嵐での発表のために来日。本人が「世界でも特別な場所」という日本の旅を楽しんだ。
「TLCのためのバーアイテムは、旅先での思い出が形に残るように、その土地の風土や文化と関連したコレクションになっています。私がそれぞれの都市か受けたインスピレーションをもとに、カクテルグラス、アイスピックなどをデザインしました。京都のホテルは周りの竹林がとても印象的な場所です。そこで、竹細工を使ったおしぼりトレイを近隣の竹細工職人とともに制作しました。もうひとつ、お猪口もデザインしました。嵐山の竹林のおもかげを重ねたいと考え、京都の清水焼の窯元、洸春陶苑の高島さんに緑色の絵付けをお願いしました。竹の情景と、京焼の伝統を乗せたお猪口になったと思います。アメリカのビバリーヒルズのホテ向けには、近くにあるフランク・ロイド・ライトが設計した1930年代の建築を着想源に、ライトの建築モチーフを使ったマティーニグラスとオリーブピックをデザインしています。パリのホテル向けには、ホテルが建てられた1920年代の狂乱のジャズエイジに思いを馳せながら、シャンパングラスをデザインし、ウィーンのガラス工房、ロブマイヤーの職人に宙吹きで作ってもらいました。これらのバーコレクションを通して、それぞれの都市のホテルを訪れたゲストがその街の景色や歴史に気づくきっかけとなればと思っています。いずれもバーで提供されるだけでなく、TLCのホームページから購入できるので、旅の思い出を持ち帰ってもらえたら嬉しいです。食を通して、その土地の文化、風土を感じてもらうというというのは、私の普段のクリエイションに通底する考えです」
そんなライラの普段の活動は、ラグジュアリーブランドからの依頼で、フードを使ったインスタレーションを通して招待客を驚きとともにもてなすこと。クリスマスツリーのように積み上げられたエビのタワーやギリシア彫刻かと見まがうバターでできたリアルな人物像、乳房の形をした餅菓子など、食べられるものなのか、食べていいものなのか、誰もが目を丸くする、彫刻のようなインスタレーションを作り出す。そうすることで、気取りがちなパーティーにおいて、ゲストたちの間に打ち解けた空気を作り出す。それがライラの意図するところ。彼女にとって料理を作ることにはそんな意味がある。食べる人たちが和気あいあいと楽しむ空気を作ること。
「食材の持ち味を最大限に生かすことはもちろん大切だと思いますが、もっとも重要なのはたとえ不特定多数の人であったとしても、食べる人のことを思って作ること。私にとって何より大切なのは料理を見た人、食べた人の中に喜びや驚きなどの気持ちの変化が起きることなんです」
エジプト出身のライラは幼い頃、料理をすることに無頓着な母親の作った卵料理がきっかけで、卵を受け付けなくなったという。硫黄のように臭う卵料理に耐えられない記憶をずっと抱えて育った。しかし、スペインで国民食のようにみんなが食べるオムレツ、トルティージャと出会い、卵に対する見方が変わった。これがきっかけとなり、食材ひとつで人の意識を変えることに興味を持ち、食の道へと歩むことになる。食を媒介として人間同士のコミュニケーションを生み出すアーティスト、ライラ・ゴハー。2022年には、妹とともに、自身の名前を冠したブランド、「Gohar World」も立ち上げた。
Text_Kanae Hasegawa Photo_Laila Gohar