「BS10 スターチャンネル」で2024年7月13日(土)から始まる新ドラマ『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』。1960年代から70年代のニューヨークを舞台に、有名作家と社交界の女性たちの関係を描く。ナオミ・ワッツやクロエ・セヴィニーらが演じる当時のスタイルリーダーたちの装いにも注目を。この記事では豪華な衣装をデザイナーが解説する特別映像も掲載。
『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』は60s〜70sのスタイルブックでもある
伝説の「黒と白の舞踏会」などファッショナブルな場面に富んだ新ドラマ
『ティファニーで朝食を』や『冷血』などの著作で成功を収めたトルーマン・カポーティは、ニューヨークの上流階級と交わるようになる。彼は社交界のトップに君臨する妻たちを「スワン」と名付けた。水面下で必死の努力を重ねながら、それをおくびにも出さず優雅に泳ぐ白鳥になぞらえたと言われている。同性愛者のカポーティは、美しくも孤独を抱えるスワンたちのよき相談相手だった。しかし、ある新作小説の発表を契機に「友情」は崩れ去り、作家自身も社交界から締め出され凋落していく。
『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』は、実話に着想したドラマだ。これがまた、有無を言わせずおもしろい。「カポーティ」や「スワン」というキーワードを知らないまま見ても楽しめる。人間模様を描いた作品として実にリアルで繊細だからだ。ライアン・マーフィが製作総指揮を務め、全8話中6話をガス・ヴァン・サントが監督したと聞けばそれも納得。さらに、60年代から70年代当時のソーシャライトたちの装いが詰まったスタイルブック的な作品と考えることもできる。
たとえば、ナオミ・ワッツが演じるのは、当代随一のスタイルアイコン、ベイブ・ペイリー。ジャクリーン・ケネディも参考にしていたというセンスの持ち主だ。冒頭シーンから早速、ベイブは〈ジバンシィ〉のショーのためにパリに行っていた話をカポーティに聞かせる。(その間に夫が浮気相手を家に呼んでいた、との流れにつながるのだけど。)カポーティと出会った食事会のシーンで着ていたシノワズリの白いドレスも、最高にエレガントだ。
スワンたちのリーダー的存在だったスリム・キースは、ダイアン・レインが演じる。バーガンディを着こなし、大ぶりアクセサリーも巧みに取り入れて、シャープな知性を滲ませる。クロエ・セヴィニー扮するC・Z・ゲストのファッションも、バリエーション豊かで見逃せない。外出時はブルー系のミニマムシックな服装が中心。いっぽう、ジャケットを合わせた乗馬スタイルや、スカーフをラフに巻いた庭仕事の格好も、リアルクローズ的で真似したくなる。
男性陣の装いにもつい見入ってしまう。まず、中折れ帽をかぶって半周巻きのマフラーを垂らすカポーティ(トム・ホランダー)の定番スタイルが愛嬌抜群だ。彼の恋人兼マネージャーのジョン・オシェイ(ラッセル・トヴィ)のビッグフレーム眼鏡も、確かにレトロなのだろうけど、2024年の今見るととても新鮮でチャーミング。
とはいえ、ファッション面でのハイライトは間違いなく「黒と白の舞踏会」(第3話)だろう。1966年に実際に行われたパーティが、モノクロ映像で再現されている。その頃社交界のスターとなっていたカポーティは、プラザ・ホテルのボールルームで大規模なパーティを開催。ドレスコードはブラック&ホワイト。作家の栄華を象徴するかのように、スワンらをはじめ、ハイソサエティの重要人物たちが絢爛ないで立ちで集まる。ジョアン・カーソン(モリー・リングウォルド)は当時活躍した前衛芸術家アレクサンダー・カルダーによるネックレスを身につけ、リー・ラジウィル(キャリスタ・フロックハート)は、エジプト王妃をイメージした黄金のオペラコートを羽織る。アン・ウッドワード(デミ・ムーア)はシフォンドレスに白い羽根で飾られたマスク姿で登場。彼女はこの軽やかな衣装をまとって、ドラマティックな一幕を展開する。
「黒と白の舞踏会」周りのシーンは、カポーティに密着して撮影されたドキュメンタリー映像として作られている。彼を取り巻く婦人たちは、誰が主賓となるか思いを巡らすが、カメラマンがマイクを向けても決して嫉妬や不満を口にしない。華やかな催しの裏にはそれぞれの思惑が渦巻いていて、そうした陰をはらむ分、なおさらドレスはまばゆく輝くのだろう。このエピソード内で、ベイブがインタビューに答えてこう話す。「私たちは装いの重要性を知っている。それが己の鎧になり、支配しようとしてくる者からの防衛策になるから」。
カポーティの人生においてもハイライトだった舞踏会。ベイブは鎧と言ったが、スワンたちにとって、着飾ることは武器でもあったはず。しかし彼女たちがそう明言することはなく、虚飾を織り混ぜながら社交は続く。そこでは連帯はときに牽制であり、好意は嫌悪と背中合わせだ。
カポーティは1975年に突如、短編「ラ・コート・バスク」を発表。そこでスワンたちの私的な秘密を暴露した。その結果一気にC・Zを除く全員に絶交され、ニューヨーク社交界で村八分にされる。ドラマはカポーティが孤立していくさまも描くが、そこでもファッションに注目してみるとおもしろい。アメリカではクリスマスに並ぶイベントである感謝祭。第2話にて、カポーティはC・Zらと過ごしたがるが、叶わない。そこで、別の集まりに参加することに。感謝祭当日、彼抜きで集まったスワンたちと、郊外の知り合いの家で食卓につく作家の映像が交互に映し出される。言葉にこそされないが、カポーティ側の面々はなんとも垢抜けない。スタイリッシュなスワンたちとの対比が強調される。それは服装に限らず料理や会話すべてに通じていて、ここに来てカポーティは失ったものの大きさを実感する。
豊かな国アメリカのエッセンスが凝縮されたような社交界で、スワンは成熟した。その後時代はセレブリティ文化、ついでインフルエンサー文化へと移り、流行の生まれ方自体も変わっていく。ベイブたちはいわば、富と階級とセンス、そして影響力とが結びついていた時代の最後のステージを飾った存在だったのかもしれない。『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』は、ヒューマンドラマでありつつ、往時の女性たちの徹底した美意識を学ぶテキストにもなる。
なお、「黒と白の舞踏会」シーンの主要キャストのドレスは、ハリウッド御用達デザイナー、ザック・ポーゼンが制作。近日、ポーゼンが解説をする「制作の舞台裏 ファッションショー編」が公開される。ginzamag.comでは、このフィーチャレット映像を特別に先行掲載。ショーに潜入した気分で楽しめる。
ℹ️
『フュード/確執 カポーティ vs スワンたち』
製作総指揮_ライアン・マーフィ
監督_ガス・ヴァン・サント(第1話〜第4話、第6話、第8話)、マックス・ウィンクラー(第5話)、ジェニファー・リンチ(第7話)
出演_ナオミ・ワッツ、ダイアン・レイン、クロエ・セヴィニー、キャリスタ・フロックハート、トム・ホランダーほか
製作年・国_2024年 アメリカ
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放送_BS10 スターチャンネルにて、2024年7月15日(祝・月)より毎週月曜23:00〜1話ずつ放送。*7月13日(土)13:15より第1話先行無料放送あり。
配信_スターチャンネルEX(Amazon Prime Video内)にて2024年7月14日(日)に第1話先行配信、23日(火)より毎週火曜に1話ずつ配信。8月22日(木)よりは毎週木曜に1話ずつ配信。
Text_Motoko KUROKI