作品賞ほか全8部門にノミネートされた、ブラッドリー・クーパー監督、レディ・ガガ主演の『アリー/スター誕生』。この作品がリメイク作品だということはご存知でしょうか?過去に公開された、4つの『スタア誕生』をイッキ見します。
◆1937年『スタア誕生』(監督ウィリアム・A・ウェルマン、主演ジャネット・ゲイナー)
◆1954年『スタア誕生』(監督ジョージ・キューカー、主演ジュディ・ガーランド)
◆1976年『スター誕生』(監督フランク・ピアソン、主演バーブラ・ストライサンド)
◆2018年『アリー/スター誕生』(監督ブラッドリー・クーパー、主演レディー・ガガ)
前回の古典的ハリウッド映画の粋な演出が冴え渡るジャネット版から、時計の針を約20年後に動かし、戦後は1954年のガーランド版『スタア誕生』を見てみましょう。ネタバレ上等の覚悟で挑んだので、そこだけご注意を。
『スタア誕生』(1954年)
監督:ジョージ・キューカー
主演:ジュディ・ガーランド
映画女優から、ミュージカルスターに
基本的なストーリーはジャネット版を踏襲していて、後半なんかは台詞までほぼ一緒のシーンも数多く見られます。一方、大きく変わったのは、ミュージカル要素が加わっている点。主人公であるエスター(後にヴィッキー・レスターという芸名になるのも一緒)は、売れない歌手という設定で、そんな彼女がノーマンと知り合い、彼にフックアップされてミュージカル女優のスターになるという具合です。ガーランドは実際にもミュージカル映画スターですから、彼女が歌って踊るシーンの楽しさったらありません。
ジェネット版を引受けながら、ヒネりを加えてアップデートされたシーンもあります。例えば、スタジオの専属女優となったエスターが、スタジオのメイクさんたちにはちゃめちゃな化粧を施されるシーン。ジャネット版では単なる笑えるシーンとして描かれるわけですが、ガーランド版ではその姿を見たノーマンが「君は化粧なんか必要ない」と、化粧を拭き取るなんていうロマンチックなシーンに変わっています。
しんどくリアルなアルコール描写
また、ノーマンのアルコール依存症の描写がより容赦がないのも印象に残りました。アカデミー賞授賞式の壇上に勝手にあがって泥酔状態でクダを巻くシーンでは、ジャネット版では自身の近作が駄作であったことを卑下するだけでしたが、ガーランド版では「仕事をくれよ!」と懇願していて、見ちゃいけないものを見た感が強い。そんな彼を前にどうしていいかわからないエスターも「彼を直せない自分が憎い」と泣き叫び、実際のアルコール依存症者とその家族の姿を見ているかのようです。
さらには、エスターがノーマンのスタジオの重役に「彼はどうしてああなってしまったの?」と問うと、「それがわかっていたら、どうにかなっていたはずだ」と静かに答えるなんてシーンもあります。そうやって依存症にわかりやすい原因(家族問題とか……)を求めないというあたりにも、酷薄なリアリティを感じました。
ガーランドは実生活ではどちらかと言うとノーマンのような人で、ドラッグに溺れていたと言います。『スタア誕生』は彼女のほぼ初めてのシリアス作品だったのですが、にもかかわらず凄まじい役を演じ抜けたのは、彼女にとってもリアルなテーマだったからかもしれません。実際、彼女はノーマンが亡くなって取り乱すシーンで、監督から「すごい演技だったね」と褒められたとき、こう言ったそうです。「午前中、私の家に来ればいつもあんな感じですよ」と。
次回は自立した女性を活写する、1976年のバーブラ版を見比べます。