作品賞ほか全8部門にノミネートされた、ブラッドリー・クーパー監督、レディ・ガガ主演の『アリー/スター誕生』。この作品がリメイク作品だということはご存知でしょうか?過去に公開された、4つの『スタア誕生』をイッキ見します。
◆1937年『スタア誕生』(監督ウィリアム・A・ウェルマン、主演ジャネット・ゲイナー)
◆1954年『スタア誕生』(監督ジョージ・キューカー、主演ジュディ・ガーランド)
◆1976年『スター誕生』(監督フランク・ピアソン、主演バーブラ・ストライサンド)
◆2018年『アリー/スター誕生』(監督ブラッドリー・クーパー、主演レディー・ガガ)
前回の容赦なくリアリティを追求したガーランド版から、時計の針をさらに約20年後に動かし、1976年のバーブラ版『スター誕生』を見てみましょう。ネタバレ上等の覚悟で挑んだので、そこだけご注意を。
『スタア誕生』(1976年)
監督:フランク・ピアソン
主演:バーブラ・ストライサンド
1970年代、ハリウッド映画のスタジオシステムは崩壊し、代わって“アメリカン・ニューシネマ” が台頭した時代です。反体制的なキャラクターたちの生き様を、ロケー撮影でドキュメンタリータッチに描くような作品のことです。また、この“アメリカン・ニューシネマ”は、同時代のロックを積極的に取り入れたことでも知られます。原題は同じく“A Star is Born”でありながら、邦題が『スタア誕生』から『スター誕生』へと現代的に生まれ変わった本作も、その流れの中にある一作と言えるでしょう。
舞台は映画界から、ポップミュージック界へ
やはりストーリーの大まかな流れはジャネット版を引き継いでいますが、細かい設定は大幅に変わっています。時代は1970年代に、舞台は映画界からポップミュージック界に、エスター(名字はホフマンに変わっています)は場末のバーの歌い手、ノーマン(こちらはジョン・ノーマン・ハワードに変わっています)は人気ロック歌手に、アカデミー賞はグラミー賞に……といった具合です。
プロポーズは女性から。自立した女性の描写
また、脚本にジャーナリストで小説家のジョーン・ディディオン(いつぞやの〈セリーヌ〉の広告ビジュアルでモデルを務めていたおばあさん)が加わっているからでしょうか、エスターの自立した女性としての側面が押し出されているのも特徴です。それは前2作で結婚を申し込むのがノーマンだったのに対し、今作ではエスターになっている点、あるいは、エスターがノーマンの死から立ち直るためには、誰かに背中を押してもらわなければならなかったのに対し、バーブラ版では彼女自身の力のみで成し遂げている点にも表れていると言えるでしょう。
加えて、彼女は誰かから勝手に芸名をつけられることもなければ、ラストで「私は○○婦人です」と宣言することもありません。この名前のくだりに関しては、前2作でノーマンがアカデミー賞に泥酔状態で現れる直接の原因が、宅配業者からヴィッキー・レスター宛の荷物を受け取った際に「Mr.レスターさんですか?」と言われたことだという点を鑑みると興味深いです(つまり、男性は女性の名前は平気で変えるくせに、自分の名前が変えられることに絶望するのです)。
ただ、ノーマンの依存症描写に関しては、前2作と比べると、なんというか軽い。泥酔状態でグラミー賞に現れた際も、キャリアの終わりを印づけるようなシーンにはなっておらず、エスターに「はいはいわかったわかった」と軽くいなされて終了です。自死についても、ノーマンはなんとなく音楽業界に絶望していたようではありますが、「このまま自分がいたらエスターに迷惑がかかる」みたいな強い動機も感じられず。まぁ、その辺も含めてロックスターらしいということなのかもしれません。
次回、ついに舞台は現代へ、2018年のとにかくロマンチックなガガ版を見比べます。