現代のものにはない色や柄、フォルムに無性に惹かれるのはなぜだろう。時間という魔法にかけられて、それらはとってもチャーミングな輝きを放つ。ヴィンテージを愛する人に“いちばんのお気に入り”を見せてもらいました。
クローゼットの宝もの 福地桃子さんのクロスステッチのコインパース
「きれいな色の刺繡糸が重なって、かわいい花の絵になっている。触るとポコポコ膨らんでいるところがたまらないです」
小さなコインパースを彩るクロスステッチの表面を指先で撫でながら、女優の福地桃子さんが静かに言う。使い込まれて柔らかくなった生地は紺色で、裏は茶色い革。自分で紐をつけ、車の鍵を入れている。
「1年前、鎌倉で古いうつわのお店をのぞいたら、木のカゴにこれが入っていました。『おいくらですか?』『500円よ』『えーっ、値段もうれしい!』。でもいったん保留にしたんです。一日鎌倉散策をした後に、やっぱり欲しくてお店に戻りました」
ふと手に取ったアイテムは、自分が純粋にときめいたもの。モノを見て気持ちがあがる瞬間が好き。3年前に初めて行ったイタリアで出合ったコートもそう。
「サイズがぴったりで感動し、購入しました。最近だと母から譲り受けた下駄を普段ばきすることも。5本指ソックスと合わせたカラフルな足元は、なんだかかわいらしくてクスッと笑えます。そうやって集まったものを見ると、今はきっとこういう色や風合いに惹かれているんだなと気がついて、優しく包み込まれた気持ちになります」
その共通点とはたとえば、10年後も使いたいと思える、流行り廃りのないデザイン。
「と言いつつ、手放すこともできたらいいなと思います。一度買ってみたけれど今は必要ないと感じたり、興味が変わった時に、また別の人に渡るのも素敵なことだと思うので。このコインパースも、誰かが手放したから、見つけることができた。それもまた巡り合わせで、お店に残ってくれていてありがとう、と思います」
先日、リサイクル店で買ったドイツの古いマグカップを友達への誕生日祝いにした。
「想像したらとても似合ったので。別に用意していたプレゼントを渡した後、『これもどうぞ』と差し出しました。気に入ってくれたら贈ろうと思って、ラッピングせずそのまんまでしたが、とても喜んでもらえて私もうれしくなりました。人が手放し、誰かに渡すことで、魅力が伝わって“うれしい”が連鎖する。そうやって、古いものが心をあったかくするのかもしれませんね」
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福地桃子
ふくち・ももこ>> 女優。1997年東京都生まれ。2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演。主演映画『あの娘は知らない』(監督: 井樫彩)が全国公開中。