仏発〈リュニフォーム/L/UNIFORM〉が南青山に新店舗をオープン。フランスの洗練と日本建築の要素が合わさった。インテリアデザインを手がけた「ワンダーウォール®︎」片山正通とクリエイティブディレクターのジャンヌ・シニョールは、実は15年来の友人。10年目を迎えたブランドの「今」を映すコージーな空間ができるまでの道のりを教えてもらった。
「リュニフォーム青山」で見つけるバッグとの素敵な関係
ジャンヌ・シニョールと「ワンダーウォール®︎」片山正通が語る、新店舗のストーリー

南青山は不思議なところだ。最先端ファッションの発信地でありながら、都会らしい尖った感じはなく、むしろ穏やかな空気が流れる。2023年10月7日(土)に〈リュニフォーム〉が国内2号店をオープンしたのも、そんな一画。築30年以上の建物は赤レンガで覆われ、どことなくヨーロピアンなムード。「店の前の通りの雰囲気が気に入ったんです」とジャンヌ・シニョールが言うのも納得だ。
バッグと小物のブランド〈リュニフォーム〉は、ジャンヌが第三子出産後に夫とともに立ち上げた。「毎日の生活にちょうどいいバッグがない」と思ったことがきっかけだという。元々は、数学を修め、航空業界でキャリアを積んでいた才媛。〈リュニフォーム〉の製品が持つ美しい比率や細部への徹底したこだわりには、そんなバックグラウンドが活きているのだろう。
「コティディアン」──仏語で「日常」という意味を持つこの言葉を、ジャンヌは繰り返す。実際、彼女のもの作りにはパーティ向けの派手さも、ブランドの押し出しもない。キャンバス製のバッグたちは、ただ静かに機能美を見せるばかりだ。
「日常を生きるための、使っていて心地が良くかつ丈夫なバッグが必要だと思ったんです。最初は子どもの学校用かばんを作ってみて、次は、祖母がマルシェでの買い物に使っていたトートを参考に製作しました」(ジャンヌ)
コレクションはそこから、とりどりのサイズのバッグのほか、小物入れやパソコン用ケースなどのアクセサリーを含むまでに拡大。南青山のショップは、その多彩なラインナップをあたたかく抱き止めている。
パリの旗艦店と丸の内の日本1号店に続き、ジャンヌが新店舗作りのパートナーに指名したのは「ワンダーウォール®︎」の片山正通。約15年前、パリの伝説的セレクトショップ「コレット」主催のディナーで知り合ったという。出会いについて訪ねると、二人はどんどん思い出話に花を咲かせる。けれど、ジャンヌがまず口にしたのは、片山への絶対的な信頼だった。
「彼とは、言葉がなくてもコミュニケーションができる。まるでテレパシーのように私のやりたいことをわかってくれる、本当に稀有な存在です。知り合って間もないころ、彼が手がけた〈ベイプ®︎〉や〈ループウィラー〉の店舗を訪れて、すごく強いサヴォア・フェール(匠の技術や知識)を感じたんです。その後、自分のショップを出すとなったときにすぐ、片山に頼みたい!と思いました」

2019年にオープンした丸の内店は、大航海時代にヨーロッパ貴族の間で流行した、新大陸の文物を並べる「キャビネ・ド・キュリオジテ(驚異の部屋)」が着想源だった。では、青山店にはどんなコンセプトが?と水を向けると、「"家"です」とジャンヌ。その言葉を引き継いで、片山が説明する。
「ラインナップを"見せる"意識で作った丸の内店から4年を経て、今回は『バッグと人との関係が感じられる、居心地のいい場所にしたい』という話がジャンヌからありました。そこで、家というアイデアを出発点にしたんです」
「生活の中でのバッグと人との結びつきを表現する」。これが、ジャンヌと片山が"テレパシー"で共有したテーマだ。
横長の店舗に入ると、右手には"サンルーム"、左手は"ダイニング"、奥に"アイランドキッチン"……など、住宅的要素が練り込まれている。
「このプロジェクトを始めるあたって、実はすごい奇跡があって」と片山が切り出す。
「来日していたジャンヌは、昭和の名建築家・吉村順三の建築を訪れた直後で、日本のミッドセンチュリー的デザインに触発されたらしいんです。その話をされたとき、僕の中でもちょうど吉村がブームで、色々リサーチをしていたところでした」
偶然が、そもそも感性を分かち合う二人のタッグをさらに強化したのだ。
「ただ、ジャンヌと僕とでは、日本人建築家への見方は少し変わる。そこで、僕の中で勝手に、"吉村順三好きのフランス人アーキテクト"という像を設定してみたんです。日本人からするとお決まりすぎて逆にためらうような、吉村建築にジョージ・ナカシマ(*吉村と同時代に活躍した日系アメリカ人の木匠)の家具を合わせたり、障子を使ってみたりということも、あえてやってみました。僕がイタコになってフランス人アーキテクトを降ろした感覚ですね(笑)」(片山)
あくまでヨーロッパの目線を通した"ジャパニーズ・ミッドセンチュリーモダン"。そこに端正な〈リュニフォーム〉の製品が並び、心地よい違和感を生み出していく。
〈リュニフォーム〉のアイテムは、南仏・カルカッソンヌにある工房で職人たちによって生み出される。フランスのサヴォワ・フェールが結集したバッグを日本で展開することは、ジャンヌにとっては「ドキドキする挑戦」だったという。
「日本の人は、モノの質や誠実さに関してとても敏感ですよね。私たち作り手は決して嘘をつけない。だからこそ、日本に店舗を出してみたかったし、今回、青山という観光客も多いエリアにも出店できて嬉しく思います。あとは、皆さん常におしゃれ。東京では特に、ジェンダーレスな装いが気になります。〈リュニフォーム〉も男女の区別を考えていないので、そういう共通点はあるのかなと感じています」(ジャンヌ)
片山も、人気の「ツールバッグ」を愛用する一人。〈リュニフォーム〉の質実さを、「僕になじんでくれる」と表現する。
主張せず、使い手の個性をそっと際立たせる。性別も年齢も関係なく、日常に寄り添う。そんなバッグに、日仏の美学が詰まった店舗で出合えるはず。
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ジャンヌ・シニョール
フランス・ボルドー生まれ。航空宇宙企業でリスクモデレーターとして働いたのち、2013年に夫のアレクサンドルとともに〈リュニフォーム〉を立ち上げた。現在はパリ在住。大の日本好きで、プライベートでも何度も訪れているという。
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片山正通(かたやま・まさみち)
インテリアデザイナー。株式会社ワンダーウォール®︎代表。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授として次世代の育成にも携わる。2023年10月にオープンした「虎ノ門ヒルズステーションタワー」内「T-MARKET」など、多くのプロジェクトで活躍。
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【L/UNIFORM AOYAMA】
住所_東京都港区南青山5-5-25 Tプレイス1F
tel_03-6433-5342
営業時間_11:00〜19:00(定休日なし)
*製品に好きな文字を入れられるカスタマイズサービスは、3文字まで無料で基本は即日渡し。
Text_Motoko KUROKI, Photo_Kaori Ouchi