2025年大阪・関西万博会場のメインゲートをくぐってすぐの場所にあるのが、LVMHがメインパートナーを務めるフランス館。一角を担う〈セリーヌ〉の展示『CELINE MAKI-E』では、ブランドのエンブレムである「トリオンフ」を日本の蒔絵技術によって再解釈した漆のアートピースと限定バッグを披露。日本の美と「トリオンフ」を描いたビデオインスタレーションも含め、伝統工芸の美しさや、その未来について考えさせられる内容となっている。展示期間は5月11日(日)までなので、お早めに!
〈セリーヌ〉のエンブレムを蒔絵によって再解釈
大阪・関西万博フランス館で日仏の伝統と職人技が交差

1971年、〈セリーヌ〉の創始者、セリーヌ・ヴィピアナはパリのエトワール広場を通りかかった際、車両故障に見舞われた。車外に出た彼女の目に留まったのは、凱旋門を囲むチェーン。この記憶をもとに生み出された装飾的なパターンが「トリオンフ」だ。
ブランドを象徴するエンブレムとなった「トリオンフ」は、2025年大阪・関西万博において、日仏の文化的交流の鍵を担うことに。
漆器の表面に漆で絵や文様を描き、そこに金属粉を蒔くことで器面に定着させる技術、蒔絵。この加飾技法を軸にした漆塗り作品を制作するアーティスト集団「彦十蒔絵」と〈セリーヌ〉がタッグを組み、「トリオンフ」を再解釈した漆作品を完成させた。
作品のポイントとなる色について、「彦十蒔絵」の創始者、若宮隆志は次のように話す。
「3色選んだのですが、まず1つは、朱色のなかでも、賢者の石に含まれるとされる辰砂を漆と練り合わせた本朱としました。本朱には復活と再生という特別な意味合いがあるんです。また、1500年代に日本の漆器が西洋へと輸出されたころに王侯貴族を驚嘆させた漆黒、非常に明るくて太陽を表す金も用いました」
本朱、漆黒、金色に色付けされたトリオンフ型漆器に、不老やめでたさを象徴する松竹梅が描かれた。

「伝統工芸では、伝統を継承し、守ることが必要です。ただ、昔からのものが優れているからといって、同じものを作っても評価されるわけはありません。大切なのは伝統を吸収し、それを自分のなかで破壊して、咀嚼して、また新しいものを作っていくことだと思っています」と若宮。この言葉を表すように、〈セリーヌ〉もまた、培ってきたサヴォアフェールを基に、特別なピースを生み出した。それが、漆の3色に着想を得て制作された「トリオンフ バッグ」だ。バッグの内側には本コラボレーションの印となる、梅モチーフの金箔押しが。
障子紙に覆われた幻想的な白い空間に展示された漆作品とバッグは、伝統がもたらした美しさへの感嘆とともに、それらの技術によってより創造的な未来が築かれていく期待感ももたらすはず。
現代美術家、中村壮志が〈セリーヌ〉と「彦十蒔絵」の工房で職人技に焦点を当てて撮影した映像『HANDS AT WORK』では、「トリオンフ」と日本の美が描かれた、セリーヌとナカムラのコラボレーションによる映像作品『Ten Landscapes of Dreams』が巨大なLEDスクリーンと、対面に並ぶ屏風風のミラーに映り、没入感のある空間を体感することができるので、そちらもお楽しみに。
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Text_Ayako Tada Photo_COURTESY OF CELINE