小さな料理 大きな味 43
*2021年12月号掲載の内容になります
もっちり、ニョッキ
熱々のほくほく、と聞いてまっ先に思い浮かべるものは?
たぶん、じゃがいも。
火傷しそうな熱いじゃがいもを割り、どっと湯気が上がる断面にバターをのせれば大ごちそう。
じゃがいもは、それだけでは終わらない。
甘塩っぱい煮ころがしやポテトサラダは、しっとり。こんがり揚げたポテトフライはカリカリ。薄切りのポテトチップスはぱりぱり。北海道で生まれ育った友人が「蒸かしたじゃがいもには絶対、いかの塩辛。道民はこれ」と教えてくれたので、さっそく試したら驚きのおいしさ。以来くせになってしまった。じゃがいもは、何をどうしたって結局うまいのだから、土地や文化を超えて愛される理由にも納得する。
まだ、ある。
もっちり、もちもち。
茶色の硬いごつごつが、なぜお餅みたいに? 狐につままれる気分になるのだが、この激しい展開は、じゃがいものでんぷんに含まれるアミロペクチンのなせる技。加熱してこねたり潰したりすると粘り気が出て、もっちり、むっちりとなめらかな食感に変わる。その性質を利用した料理のひとつがニョッキ。イタリアの家庭的な食べ物だけれど、科学の力を使った合理的な調理法はすごいなと思う。
マジックは一切ない。ゆでたての熱々(でんぷんの多い男爵が向く)を潰し、小麦粉(もっちり感を盛り上げるために強力粉)と塩を混ぜ、ころんと丸めてゆでれば、拍子抜けするくらい簡単にニョッキができる。
【材料】(2人分)
じゃがいも(男爵)2個
小麦粉(強力粉)70〜80g
塩小さじ1/4
【基本の作り方】
①皮つきのじゃがいもをゆでる。
②皮をむき、ボウルに入れてフォークの背などを使って潰す。
③粗熱を取って蒸気を抜いてから強力粉と塩を加え、全体を馴染ませながら混ぜる。
④台に打ち粉を広げ、3〜4本の棒状に分割し、好みの幅に切って押す。
⑤中心を指で押し、窪みをつくる。フォークの背を当てて溝を作ってもいい(いずれも、火が通りやすく、ソースが絡みやすくするため)。
熱湯でゆで、浮き上がってきたらお玉ですくって皿へ移動。チーズや胡椒を振ってオリーブオイルを垂らしたり、トマトソースをかけたり、クリームソースで和えたり。じゃがいもですもの、全方位方向に応えてくれる。
ニョッキを作ったよ、と例の北海道の友人に報告したときのこと。
「あ、それよく作ってる。強力粉の代わりに片栗粉を使えばいも餅よ」
「いも餅」もまた道民の大好物とのことだった。北海道とイタリアがぱちんと重なってうれしくなった。