お変わりはないでしょうか?
この前、神奈川芸術劇場で音楽劇『銀河鉄道の夜』を見てきました。
宮沢賢治の未完の遺作、ジョバンニとカンパネルラが銀河を巡る旅をします。
物語の後半に出てくるのは、さそりの火。
いたちに追われて、逃げ切ったものの、自らの命の終わりを悟ったさそりがひとつの思いに到達します。
このモチーフとなるのは、一等星のアンタレス。
赤く輝く星で、火星に対抗するもの、似たものとして夜空を彩っています。
客席には制限がかけられていて、前後左右は誰も座らない千鳥配置でガラガラです。
見やすいことはこの上もなく、でも、いつもならば、同じ世界を見つめる知らない誰かの気配がすぐ近くにあるのに、そこは無で、なんだか途方もない寂しさを感じました。
底なしの孤独、取り留めのない世界、熱気や音が闇に吸い込まれていく感じ。
暗闇の中、銀河鉄道が駆け抜けていき、私の手元には、さそりの火がそっと残りました。