異色のブロマンスから狂気のクライマックスへ…妖しく美しい“イマジナリー・フレンド(空想上の友だち)“の正体を巡る、先が読めないストーリー展開が、本国アメリカで好評を博したスリラー映画『ダニエル』。ティム・ロビンスとスーザン・サランドンの息子であるマイルズ・ロビンス、アーノルド・シュワルツェネッガーの息子であるパトリック・シュワルツェネッガーという、ともにスターを親に持つ2世俳優同士の競演でも注目を集めた。
今回は、孤独な主人公・ルークを演じたマイルズ・ロビンスにインタビュー。初主演となる今作で、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭の男優賞も受賞した彼に、劇中で描かれていたジェンダーにまつわるテーマや、俳優としてのこれからについて伺った。
『ダニエル』主演マイルズ・ロビンスにインタビュー「誰の中にも女らしさと男らしさの両方がある」

──マイルズさんは2016年から俳優業を本格始動され、今回の『ダニエル』で初主演。主人公・ルークは幼少期のとあるトラウマから、心に葛藤を抱えている、繊細な役どころでした。演じていかがでしたか?
ルークの頭の中に足を踏み入れるのは、かなり気が重い経験でしたが、その分やりがいがありました。アメリカでは今若い男性に、内なる葛藤が暴力性として表れ、自分や他人を傷つけてしまうケースがすごく多いんです。彼らは決して遠い存在ではなく、隣にいる人もまさに苦悩しているかもしれない。俳優の仕事には観客を笑わせて楽しませる作品がある一方、『ダニエル』のように、世界で起きていることを理解してもらうための作品もあります。ルークを演じることで、社会の端っこに追いやられ、悩んでいる人に対する、共感力を持つことが重要だと伝えられたらと思いました。
──今作は、スリラー映画という形をとった「男性社会にうまく適応できない青年の物語」だと、以前もおっしゃっていましたね。このテーマは、ルークの“イマジナリー・フレンド”であるダニエルを演じたパトリック・シュワルツェネッガーさんや、製作を務めたイライジャ・ウッドさん、アダム・エジプト・モーティマー監督らと共有していたのでしょうか?
ええ、よく話し合っていました。僕らが危険だと感じたのは、男性が子どもの頃からずっと「男とはこういうものだ」という一つの道しか教わらないことです。たとえば「男は内省的になっちゃいけない」とか、「女を力づくで得るべきだ」とか、非常にマッチョな考え方を社会から植え付けられます。そのうち「求められる姿になれなかったらどうしよう」とプレッシャーを感じた青年はときに、破壊的な行動に出てしまう。ダニエルが象徴するのは、そうした「トキシック・マスキュリニティ(Toxic masculinity/有害な男らしさ)」です。世界のどこを見ても、いわゆる大悪人とされる人物の多くは男性ですよね。僕としては、今言ったようなプレッシャーがその理由なんじゃないかと思うんです。
──劇中で、ルークはダニエルに体を乗っ取られてしまいます。内気なルークから凶暴なダニエルへの演じ分けが見事でしたが、どう意識しましたか?
アメリカには「インセル(Involuntary celibate/不本意な独身者)」という言葉があり、ダニエルのように女性や周囲を嫌悪し、かなり偏った考え方をする孤独な青年たちを指します。彼らが実際、国内で多くの暴力事件を起こしているんです。ルークに乗り移ったダニエルを演じるにあたり、インセルがどのように世界を見ているのか知りたくて、彼らが集まるネット掲示板をリサーチしました。そこではドロドロした恐ろしいエネルギーを感じましたが、原因はやはり不安や悲しみなんですよね。両面を気にかけながら、役作りをしました。…でも現場でパトリックがダニエルを見事に演じてくれたので、彼を真似するだけでも充分だったかもしれません(笑)。
──マイルズさんご自身は、社会から要求される男らしさ、いわゆるジェンダーの役割について、どのように向き合っていますか?
誰の中にも女らしさと男らしさがあり、完全な人生を歩むためには、両方を理解することが大きな助けになると思います。いつからそういう考えを持っていたかは覚えていませんが、姉と兄がいたことがきっかけかもしれません。僕は野球やアイスホッケーの試合中継を観戦するのと同じくらい、Netflixで『ル・ポールのドラァグ・レース』を観るのも好き。普段着ているのはメンズ服ですが、バンド「Pow Pow Family Band」でパフォーマンスするときはドラァグ(女装)します。自分の女性的な面をキャラクターとして体験できるのが楽しいからです。この美しい世界のすべてに対して、オープンでいることが大事だと思います。女性に生まれたから、男性に生まれたからといって、したいことを諦める必要はありません。
──最後に、俳優としての本格的なキャリアが5年目を迎えた今、これからの展望を教えてください。
出演予定作がいくつか控えていますが、コロナ禍でなかなか見通しが立たなくて。時間はたっぷりあるから、ドラマシリーズの脚本を書いてみたり、来年バンドの新アルバムを出すつもりで準備したりしています。ゆくゆくは、トミー・リー・ジョーンズのように、サントリーコーヒー「BOSS」の顔になりたい(笑)。…というのは冗談としても、僕の夢は是枝裕和監督の映画に出ること。もし『ダニエル』を観て気に入っていただけたら、どんな役でもいいから出演したいです。
日本には仲がいい友だちがいて、去年の2月にも行きました。銭湯が好きで、ひいきにしているのは東京・高円寺の小杉湯。そこで熱湯風呂と水風呂を往復する入浴法を体験してから、僕の人生は変わりました(笑)。コロナが落ち着いたなら、すぐにでも行きたい気持ちでいっぱいです。コンビニでのバイト生活を送って、日本に住むのも悪くないですね(笑)。
『ダニエル』
原題: Daniel Isn’t Real
製作: イライジャ・ウッド
監督・脚本: アダム・エジプト・モーティマー
脚本: ブライアン・デリュー
クリーチャーデザイン: Illusion Industries
音楽: Clark
出演: マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガー
配給: フラッグ
2019/アメリカ/カラー/DCP・BD/100分
2021年2月5日(金)より全国公開
©2019 DANIEL FILM INC. ALL RIGHTS RESERVED.
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マイルズ・ロビンス
1992年生まれ。ティム・ロビンス、スーザン・サランドンを両親に持つ。ティム初監督、スーザン主演の『デッドマン・ウォーキング』(95)で映画デビューを果たす。初主演映画となる本作では、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭で男優賞を受賞。その他の出演作に『ブロッカーズ』(18)、『ハロウィン』(18)、『クリスマスに降る雪は』(19)、声の出演作に『フィアレス スーパー・ベイビーズに立ち向かえ!』(20)など。テレビドラマシリーズ『X-ファイル』(93~18)では、長く行方不明だったモルダーとスカリーの息子・ウィリアムを演じている。
Text: Milli Kawaguchi